タイにおける労使交渉のルール

「タイにおける労使交渉のルール

調停なしのストは違法」

2009年1月29日 元田時男

日本において労使交渉のルールは法では何も決めず、労働協約、労使協定で労使が自主的に定めているのであるが、タイでは1975年労働関係法でその手順を定めている。日本とタイの労働運動の歴史的な違いによるのであろう。以下、「法」とは労働関係法を指す。

1)要求書の提出

まず、要求書の提出は必ず文書で行うことが定められている(法13条)。次に要求書の成立要件であるが、労働者側が出す場合、以下のように二つに分けられる。

  • 労働組合が提出する場合

その労働組合の組合員の数は全労働者も5分の1以上であることが求められている(法15条1項)。

5分の1以上であるかどうか疑わしいときは、労働調停官へ文書で調査を依頼することができるように規定されている(法15条3項)。

  • 労働者の代表が提出する場合

労働組合がないか、あっても組合員数が全労働者数の5分の1以上を占めていない場合、交渉を行う労働者の代表(選出の規則は省令で定められている)7名以内を要求書に記載し、更に要求書に関係する労働者の15%以上の労働者の氏名と署名が必要である(法15条3項)。

2)交渉の開始と交渉決裂

要求書受理のときから3日以内に交渉を開始しなければならないが(法16条)、開始でいない場合、法では「労使紛争」が発生したとみなし、その時点から24時間以内に要求書提出側は労働調停官に文書で通知しなければならない(法21条)。

また、交渉が期限内に開始されたが合意に至らず、交渉が決裂した場合も、「労使紛争」が発生したとみなし、その時点から24時間以内に要求書提出側は労働調停官へ文書で通知しなければならない(法21条)

3)労働調停官による調停

労働調停官は上記の通知を受けたら、5日以内に合意するよう調停を行わなければならない(法22条)。

(筆者注:3日以内の交渉開始、5日以内の調停の規定は、短すぎるという問題がある。)

4)労使交渉が合意された場合

労使が自主的に労使交渉により合意した場合、または労働調停官の調停により合意した場合、合意事項は文書にし、使用者と労働組合の委員または代表が署名して、合意に日から3日以内に30日以上、事業所内に掲示しなければならない(18条1項)。

また、使用者は合意の日から15日以内に登記しなければならない(18条2項)。

5)労働調停官の調停不調の場合

上記3)により労働調停官が調停しても労使が合意に至らない場合、「合意できない労使紛争」が発生したとみなされ、以下の二つの道が法で規定されている(法22条)。

  • 労働者側はストライキ、使用者側はロックアウトという実力行使を行う。
  • 労使が合意して「仲裁」による解決を目指す。

そして、スト、ロックアウトを行使する場合、24時間以上前に、相手側と労働調停官に対して文書により通告しなければならない(34条2項)。

 

以上、タイにおける労使交渉の法的ルールを見てきたが、このルールを逸脱すれば法律違反となる。すなわち、労働調停官の調停を経ずしてストライキ、ロックアウトを行えば法律違反となるのが、日本とは異なるので注意したい。

それでは、労働者が要求書も出さずにいきなり職場のそとへ出て集会を開いたらどうするかという問題がある。仕事を放棄して一斉に外へ出てしまうのであるからこれは立派なストで、判例では、こういうケースで指導者は法律違反を犯したのでるから解雇されたのは適法であるというのがある。

筆者も似たようなケースを経験したことがある。日系企業の責任者から労働者が工場の外へ出て騒いでいる、来てくれという要請があり、駆けつけたが、ここで法律違反であると言えば興奮した労働者はますます興奮すると思ったので、とにかく労働者の代表者を出してくれと依頼、その代表者と使用者と一緒にマイクロバスで労働事務所へ行き、1時間ほどで調停官から調停案を出してもらい、幸いにして労使とも合意したので合意書に署名して1件落着となった。つまり、要求書提出から調停まで同時にやってしまったのである。

労働問題は人間の問題であるから法律論を振りかざすより、その場の雰囲気に合わせて現実的な解決をしたほうがいいこともあるのである。

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