icon-anchor FAQ:労働者は解雇補償金さえ払えば自由に解雇できるか
Q:タイでは、解雇補償金の制度があり、会社都合で解雇する場合、解雇補償金を支払えば自由に解雇できると聞いていますが、本当でしょうか。

A:確かにそのように理解している日本人はいますが、これは大きな誤解です。何故このような誤解が生じるかを考えてみますと、余り技能習得に期間を要しない若い単純労働者の場合、離職率の高いタイですと次の職場を探すには余り手間はかかりません。従って解雇補償金を貰って、一時的に資金が得られるなら辞めてしまう労働者が多いのです。

しかし、マネジャークラスになると事情は異なります。年齢も高くなっていますし、能力を身につけるために勤続年数は長くなっています。次の職場を探すのは、若い未熟練工よりも困難となります。また、配偶者、子供もあり、教育の問題を考えると、タイといえども職場を変えるのは簡単ではありません。不当解雇として労働裁判に提訴することは多くなります。使用者側が負けるケースも多いです。

そもそも、タイの労働法全体の主旨は、日本と同じく立場の弱い労働者を守るという考え方に立っています。従って、解雇制限は労働者保護法、労働関係法の至る所にあります。

まず、解雇できる場合を見てみますと、労働者保護法では、119条で以下のように定めています。

(1)職務に不正を働き、使用者に故意に刑事犯罪を犯した場合

(2)使用者に故意に損害を与えた場合

(3)過失により使用者に大きな損害を蒙らせた場合

(4)就業規則、使用者の正当な命令に従わず、警告を受けた場合

(5)休日を含み3日連続して職務を放棄した場合(正当な理由がある場合は除く)

(6)最終判決により懲役刑を受けた場合(過失による軽犯罪は除く)

このような理由がある場合でも、労働裁判では重大かどうかは争われることが多いのです。

逆に、解雇できない場合を見てみますと、労働者保護法43条では、女性を妊娠を理由に解雇できません。また、労働関係法では121条で日本と似た「不当労働行為」が禁じられていまして、例えば労働組合員であることを理由として解雇できません。また、同法第52条により労働者委員会の委員は労働裁判所の許可なく解雇できません。

労働関係法第52条では労働者委員会の委員を労働裁判所の許可なく解雇することはできません。

また、労使協定が有効期限であるときに、要求書に関係した労働者、労働者代表、労働組合の委員などを解雇することはできません。ここは非常に重要なことで、どこの企業でも賃金などをめぐる協定は必ずあり、通常1年は有効であります。また、要求書には殆どの労働者が関係(要求書への署名、代表の選挙など)していますので、解雇できません。

つまり、上述の119条の(1)から(6)までに該当しなければ解雇は本人が解雇補償金につられて辞める以外は困難ということになります。

ただし、技術革新などにより人員を整理しなければならない場合は、60日以上前に予告し、労働監督官に通知しなければならないと定めています。これも、もし、労働者から不当解雇と提訴されれば、労働裁判所は本当に技術革新などにより止むを得ないものか、人選に不公平がないかを審理することになります。

また、よく行われるのは企業が赤字体質で、日本でいう整理解雇を行う場合も、不当解雇と提訴されれば、労働裁判所は、企業努力をしたか、他に方法はないのか、整理する労働者の人選に不公平はないのかについて当然審理することになります。これらについて使用者側から裁判官が納得する説明がない限り不当解雇と判断されるケースはタイでも結構あります。

以上、見てきますと、タイの労働法では、日本の労働契約法第16条のように、客観的、合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は解雇権の濫用という思想に立っていると認めざるをえません。ILOにはタイも加盟し、ILO条約158号「使用者の発意による雇用の終了に関する条約」は日本もタイも批准はしていませんが、日本は、すでに労働契約法で、この条約の精神を生かし、タイは明文の規定はないものの、労働法の全体を見渡すと、ILO条約158号の精神は生かされていると見るのが順当と思われます。

以上

modified 2016/12/7