日タイ租税条約の概要について

日タイ租税条約の重要ポイント

はじめに

タイは現在、日本を含む43カ国と租税条約を結んでいるが、現行の日本との条約は1963年に締結されたものを1990 年に改訂したもので、1988 年1 月1 日に遡って適用されることになっている。正式の名称は「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とタイ国との条約」となっており、脱税の防止も目的に入っていることに注意されたい。正本は英語である。この条約の目的とする租税は日本の場合、「所得税」と「法人税」であり、タイでは「所得税(個人、法人)と「石油所得税」である。これらの租税について、所得の種類によりどちらの国が課税するかを明確にしているのであるが、今回は日系企業または日本人のタイ国内での一般的な活動により生ずる場合に焦点を絞って概説したい。また、紙数の関係で要点しか説明できないので、詳細は条約そのものを参照されたい。

事業所得

日本の企業(日系の現地法人ではない、現地法人はタイの企業である)がタイで活動して得た所得については、条約の7 条においてタイにある「恒久的施設Permanent Establishment – PE」を通じて事業を行った場合についてのみタイ側に課税権があると定めている。PEとは世界の諸国が締結している租税条約で使用される用語であるが、もっとも典型的な例として、日本の企業がタイで建設を請負う場合に限れば、5 条の3 で建築工事現場もしくは建設、据付けもしくは組立の工事、監督活動は3ヶ月を超える場合PEとすると定められ、また、4では、日本の企業がタイで使用人等を通じてコンサルタントなどの役務を提供する場合、それが6ヶ月を超えて行われる場合PE とすると定められている。
また、3ヶ月、6ヶ月を超えなくても、日本の企業がタイで自己に代わって契約行為などの行動をする者を置いていた場合、その者は5 条の6 によりPE とされることもあるので注意されたい。
このPEがある場合とない場合では、その他の所得でも後述の通り課税に大きな差が出てくるので、自己の事業に関してPE があるかないか詳細は会計事務所などで確認されたい。

配当所得

タイの法人(日系の現地法人など)が日本の居住者に支払う配当は、10 条により、議決権のある株式の25%以上を有する場合で、産業的事業に従事する法人から支払われる場合15%、その他の場合20%を超えない
額をタイ側が課税することができるように定められている。ただし、実際はタイの国税法により10%となっているので、日本への送金時に10%を源泉徴収する必要がある。ただし、BOI 奨励事業からの配当で免税期間中に配当されるものは免税となることに注意されたい。

利息

11 条により、タイで生じた利息は、日本の金融機関が受け取る場合10%、その他の場合25%、日本政府が所有する金融機関が受け取る場合は免税となっている。ただし、その他の場合は、法人が受け取る場合、タ
イの国税法70 条と所得税率表により15%となっている。以上を日本へ送金する場合、源泉徴収する必要がある。

ロイヤルティ

これは日本語のテキストでは「使用料」と訳されているが、内容は12 条の3 により著作権、特許権、商標権、意匠、模型、図面、秘密方式もしくは秘密工程(ノウハウ)の使用の対価、または産業上、商業上もしくは学術上の経験に関する情報の対価と定義されている。これらの対価をタイから日本へ支払う場合は12条の3 により15%までをタイ側が課税することができるよう定められている。実際は、PE がない場合、タイの国税法70条と所得税率表により15%が課されているので、日本への送金時に15%を源泉徴収する必要がある。
ちなみに、所得税(個人、法人)とは関係ないが、ロイヤルティの支払いを伴う事業は、タイ国税法のVATの部では外国から役務が提供され、その使用はタイで行われると解釈され、タイの国税法77/2 条により日本の企業はタイで売上税を納付する義務があるが、支払者が同法83/6 条によりVAT(日本企業の売上税、タイ企業にとっては仕入税)を納付する必要があると解されている(参考1993 年12 月24 日付国税局文書KorKhor0802/26204)

人的役務に対する報酬

これは、例えば日本人がタイへ入国して働く場合の報酬、所得に関するもので、14 条では以下の3項目を全て満たす場合、タイでは課税されないこととなっている。
1.受領者の滞在期間が当該年に通算180 日を超えないこと
2.報酬、所得が日本の居住者またはこれに代わる者から支払われるものであること
3.報酬、所得がタイで租税を課される企業によって負担されるものでないこと
従って、日本の本社から給与を貰っている従業員が、一時的に、調査等の目的で、タイへ入国、年間180 日以内働いた場合、タイでは個人所得税は課されないことになる。

役員報酬

例として、日本の居住者がタイの現地法人の役員(英語原文はDirector)として報酬を得る場合、15 条によりタイ側に課税権がある。この場合の所得はタイの国税法40 条の(2)「職責などに基づく報酬」となり、
同法50条の(1)の4項により、タイ国の非居住者に支払う場合15%を源泉徴収する必要があると解される。ちなみにタイの国税法では、41条の3項で、暦年でタイでの滞在日数合計が180に達しない者が非居住者となっている。

研修費

これは逆にタイ企業のタイ人従業員が研修の在留資格で日本へ派遣され、日本の受け入れ先で研修を受ける際に受け取る研修費(研修手当)については、どうなるかであるが、これは19 条のb の「職業上もしくは営業上の資格に必要な訓練を受けるため」の入国に該当し、ii の「交付金、手当または奨励金」は日本では免税となっている。

機器の借料

日本からタイ企業に機器(動産)を賃貸する場合、タイが締結している他国との租税条約では事業所得とされているものもあるが、日タイ租税条約では、事業所得を規定している7 条の8 において「不動産以外の財産(工業所有権、ノウハウなどのロイヤルティに関する財産は除く)の使用または使用の権利の対価」は事業所得に含まないことが規定されている。
そうなると、20 条の3 によりタイ側に課税権があることになる。その場合、この賃貸料は、タイの国税法40 条の(5)の(イ)「資産の賃貸料」に該当することになり、同法70 条と所得税率表により、15%が課せられることとなり、日本へ賃借料を送金するとき15%を源泉徴収する必要がある。 ちなみに、VAT では前述のロイヤルティと同様、外国からの役務(サービス)の提供があり、その役務の使用はタイであるということになり、支払者に仕入税としてのVAT の納税義務が生じると解される(参考1996 年3 月21 日付国税局文書KorKhor0802/4573)。

BOI 認可事業に対する措置

BOIから投資奨励を受けた事業は立地により8年以下の法人所得税が免除されるが、タイで免税されたからと日本で課税すれば、タイ政府の投資奨励策としての免税恩典の効果はなくなってしまうので、タイでは課税されたとみなして日本側は課税しないことが日タイ租税条約に盛り込んであることを注意しておきたい。この制度は日本では「みなし外国税額控除制度」と呼ばれているので、詳細は税務当局に問合せられたい。