タイの不動産売買で注意すること

タイの不動産売買で注意すること

2020年6月4日:元田時男)

はじめに

タイの土地法典では、原則として外国人および外国人の持分が49%を超える株式会社(注:日系企業の場合、ほとんど株式会社形態であるので、株式会社の場合について述べる)は土地の所有権を登記することができない。ただし、BOI またはIEAT(タイ国工業団地公社)から奨励を受けた事業用土地については、それぞれの特典により外国人の持分が49%を超えても登記することができる。この登記をめぐって、抵当権が設定されている土地を購入、登記ができないという事件が頻発したことがある。ここでは、タイでの土地にまつわる注意事項について述べたい。

土地の地権書について

日本においても「権利書」と称されるものがあるが、これは単に所有権登記をしたという証明書に過ぎず、これをもって土地の取引をするのではなく、原本は登記所(法務局)にある。しかし、タイの地権書の場合は、まさに土地の所有権を表すものである。これには幾つか種類があるので注意を要するが、一番確実な地権書は「チャノート・ティー・ディン」と称されるものである。次いで確実なものとして「ナンスー・ラップロンーグ・ガーン・タム・ブラヨート」がある。これら2通の地権書は。土地法典第57 条により2 通発行され、1部はオーナーが保管、もう1 通は土地局(地方の場合は県の土地局)が保管することになっている。

この地権書は黄色い厚手の紙1 枚で、表には「チャノート・ティー・ディン」など地権書の種類が記され、さらに所有権者の氏名、住所、土地の広さ、土地の図面、境界を示すくいの番号が記入されている。裏側は、所有権の移転、抵当権設定などその法律行為が記されている。ちょうど日本の不動産登記簿が表題部と権利部に分けられているのと同様である。

所有権の移転、抵当権の設定は、日本と同様登記事項であり、このような法律行為は土地局において、地権書の2 通に記録されることになっている(土地法典第75 条)。そして、地権書の裏側に登記事項(権利関係)が書き込まれ、登記官の署名、公印が押印されている。従って、土地の売買の場合、地権書の裏側を見て、抵当権が設定されていないかなど、当該土地にまつわる法律関係を確認することができるのであるのであるから、地権書、またはそのコピーを見せられたら、必ず裏側も見て確認することが必須である。

従って、理論上は土地局が保管している地権書と所有権者が保有している地権書はいずれも正本で内容は同一であり、所有権者の地権書の原本を見て、信用することはできるのであるが、通常は、所有権者の地権書のコピーを持って土地局へ出向き、土地局の原本と照合して万全を期すのが普通である。万一、2通の原本に相違がある場合に備えるのである。

土地の売買契約成立の必要条件

ここでは日本とタイの違いについて注意しておきたい。

日本の場合、不動産に限らずどんな大きな取引でも口頭の合意だけで成立するのである。民法176条では物権の場合「物権の設定および移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。」と定められている。 

これが売買を有効にする唯一の要件である。ただし、後々裁判で言った、言わないの争いが起こらないように発注書、受注書や売買契約書を取り交わすのが通常である。

従って、日本では不動産の場合も口頭の約束だけでも契約は成立する。登記は契約成立の要件ではないのである。ただし、民法177 条において、「不動産に関する物権の得喪、および変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ第三者に対抗できない」と定められている。例外もあるが、これが大原則である。仮に同一の不動産を二人に販売した場合、つまり二重売買であるが、先に登記した方が第三者に対して対抗できる。もう一方の買い手(登記しなかった)は、先に登記したもう一方の買い手に対抗できない。 

では、タイの場合は如何であろうか。

具体的にタイの民商法典で見てみよう。456 条では、「不動産の売買契約は、書面により、登記しなければ無効(タイ語ではモーカ、เป็นโมฆะ、英語ではvoid)と規定されている。つまり法的効力が無いのである。

つまり、契約が口頭ではなく書面で行われることと、その書面が登記される(登記官による署名と公印が必要)ことが必要である。

実務的には、契約を2段階で行っている。一つは将来の売買を約束する契約書である。タイ語では「ジャ・カーイ、ジャ・スー、จะชาย จะฃื้อ」で、「売りましょう、買いましょう」の契約である。この契約書には将来売買される土地の売買条件が詳細記されている。

次いで、実際に売買するときは、土地局の登記官の面前において、ガルーダのマークの付いた公式の契約書様式に売買契約をまとめ、売り手と買い手が署名し、さらに登記官が署名して公印を押す。その直後に、登記官による土地所有権移転登記と土地代の授受が同時に行われている。これであれば、日本のように二重売買の危険は理論的にはありえないことになる。

では、工業団地の販売業者と英文の売買契約書に署名し、手付金も支払ったのは何だったのかと問われれば、前述の将来の売買を約束した契約に過ぎないということができよう。売り手と買い手は将来登記官の面前で正式(有効な)の契約を行う義務を負っているに過ぎないと解することができよう。日本のように、口頭による合意と同時に所有権は移転しないのである。

土地売買の事故はなぜ起こるか

タイでは前述のような登記官の面前での手順を踏まなければならない。90年代に、この原則を守らないで販売業者の云うがままに行動し、土地代の大部分は支払ったのに所有権登記ができなかったという事故が頻発したことは、筆者が云うまでもなく周知の事実である。これらの事故は、団地の販売業者が土地を借金の担保とし、買い手は抵当権設定の事実を地権書および土地局において確認しないで、全額に近い土地代を支払い、いざ、登記のときに既に抵当権設定があるために資金の貸主からか資金が返済され、抵当権を抹消するのに時間がかかったケースである。また、タイでは銀行へ土地を担保に入れると、地権書の原本は銀行が預かるのが通常であるので、土地の売り手が黄色い紙の地権書原本を持たず、コピーを提示したときは、担保に入った土地であると理解することができる。 

これらの事件には二つの側面がある。一つは、前述の手順、つまり、土地代全額の支払いと所有権移転登記を同時に行うという通常の手順を踏めば起こりえなかった事件である。二つ目は、事前に物件の法律関係を土地問題に詳しい弁護士等に相談する必要があるということである。書類は全てタイ語であるからタイ人の弁護士がかかわる必要がある。こういう専門家による土地局での調査をしなかったということである。

おわりに

日系企業の責任者は、40 代であれば、日本において自宅を購入するという経験があるはずである。全て何事もなく済んだはずである。それは「宅建主任」という資格を持った専門家が、日本の民法、登記法をよく知った上で、万事遺漏なく手続きを踏んだからである。しかし、タイにはそういう便利な制度はなく、弁護士を使う以外ない。タイの法律を知らないのに弁護士を使わないで、販売業者とさしで物事を運んだから起こった事故である。タイと日本は似ているようで微妙に異なる。法律が異なる外国であるという認識の原点に立って物事を運ぶという用心深さが必要である。

また、参考までにタイの法律を一つ紹介しておくと、2008年Escrow Act(พ.ร.บ.การดูแลผลประโยชน์ของคู่สัญญา 2008、2019年に一部改正)という法律があり、Escrow agent(売り手、買い手の間に立ち売買等が間違いなく行われるよう委託を受ける) には原則として金融機が、ライセンスを受けて行う。所管は財務省である。ご関心の向きは弁護士等に相談されたい。

(おわり)