タイの外資政策のあらまし

タイの外資政策のあらまし

2020年10月26日 元田時男

1. 外国人事業法(製造業は原則規制なし)
 1960年代まで、タイには外国企業がタイで事業を行うことについての規制は、BOIの投資奨励業種の一部にタイ資本のマジョリティを要求する以外にはなかった。従って一般の事業について外資がタイで事業を営むことは自由であった。ただし、そうした外資系企業で働く外国人に対する長期のビザは国によって年間付与される者の人数が決まっており、日本のように入国希望の多い外国人は短期のビザで入国、ビザの期限が切れるとき、いったん近隣国(ラオス、マレーシア等)へ出国し、そこで再度短期の入国ビザを取得して再入国するということを繰り返して、タイで働いていた。

しかし、1970年代初頭、国際、国内の事情により、タイ人が営む実力がある事業はタイ人に残せと、外国人が営む事業を現制する動きが高まり、1972年の軍事政権下、革命団布告として、いわゆる外国人事業法が公布された。この法律は、タイの経済が1997年に始まった経済危機に直面したあと、99年に改正され、2000年3月から新しい法律として外国人事業法が施行された。この規制業種は後述するように、3種類の業種に分かれているが、第1種、第2種は、農業、伝統工芸など外国人にとっては元々参入しにくい業種である。一方第3種はほとんどサービス業で、タイ人に競争力がついていないものが挙げられている。ただし、高度な技術を要する建設業、大きな資本を要する小売業などは条件付きながら、外国人の参入を認めている。また、製造業は規制されていないことに注意されたい。また、機械のメンテナンス業など、タイに技術が残るようなものも、外国人事業委員会に申請すれば認可されるケースもある。

一方、BOIの外資政策は次第に自由化されてきており。現在では、農業、サービス業の一部などの特別にタイ人残しておく業種に限られている。その中には一部サービス業も入っているので、サービス業は全てが外資マジョリティの参入を規制している訳ではないことに注意されたい。

2. 外国人の定義
 この法律による外国人の定義は、法第4条により厳密に定められているが、日系企業にとり重要な部分に限ると以下の通りとなる。パートナーシップなどについても検討したいのであれば、本ホームページに挙げている「1999年外国人事業法」和訳を参照されたい。
(1)タイ国籍のない自然人
(2)外国の法律により設立された法人
(3)タイ国の法律で設立されたが、資本金の2分の1以上が(1)または(2)によって保有されている法人(逆に、タイ人の持分が50%超であればタイ人となるので、サービス業で外国人事業委員会の認可が得られない場合、タイ人の持分を51%以上とすることはよく行われている)。

3. 外国人事業法の規制業種(生産的事業は規制対象外)
 本法では、業種を3種に分けて以下のように規制している。
別表1 特別の理由により外国人が営むことのできない業種
(1)新聞、ラジオ放送、テレビ放送事業
(2)稲作、畑作、園芸
(3)家畜飼育
(4)営林および自然林の木材加工
(5)タイ国の領海、経済水域での漁業
(6)タイ薬草からの抽出
(7)タイの古美術品などの販売、競売
(8)仏像および鉢の製造
(9)土地の売買

別表2 国家の安全、または伝統芸術、天然資源、環境に影響を与える事業、これは閣議の了承に基づき商務大臣が許可することになっていて、以下の1類、2類、3類に分けられている
1類:国の安全に関するもの
(1)武器の製造販売
(2)国内の陸上、水上、航空輸送
2類:伝統、芸術、地方工芸に影響を与えるもの
(1)古物、美術品すなわちタイ国の芸術、工芸品の取引
(2)木製彫刻の製造
(3)養蚕、タイシルクの製造、タイシルクの織物またはタイシルク布の捺染
(4)タイ楽器の製造
(5)金製品、銀製品、細工品、象眼金製品、漆器の製造
(6)タイの伝統工芸である椀、皿または陶磁器の製造
3類:天然資源または環境に影響を与える事業
(1)砂糖きびからの製糖
(2)塩田での製塩
(3)岩塩からの製塩
(4)爆破による砕石を含む鉱業
(5)家具、道具を製造するための木材加工

別表3 外国人との競争力がまだついていない事業
外国人事業委員会(後述)の了承により、タイ人の持分が50%未満であれば商務省商業発展局長が許可する。
(1)精米、米および穀物からの製粉
(2)養魚
(3)植林
(4)合板、ベニヤ板、チッブボード、ハードボードの製造
(5)石灰の製造
(6)会計サービス
(7)法律サービス
(8)建築サービス
(9)エンジニアリングサービス
(10)建設、以下を除く
   1)特別の機器、機械、専門性を要する公共施設または通信運輸に関する基礎的なサービスを国民に提供する建設業で外国人の最低資本金が5億バーツ以上のもの
   2)省令で定めるその他の建設業
(11)次を除く仲買業、代理業
   1)証券売買仲介、代理業、農産物または金融証券の先物取引
   2)同一企業内における製造に必要な売買、商品発掘の仲介、代理、または、製造に必要なサービス、技術サービス
   3)外国人の最低資本金額が1億バ-ツで、タイ国内で製造されたか外国から輸入された製品を売買するための仲介または代理業、国内、国外の市場開拓、販売業
   4)省令で定めるその他の仲介、代理業
(12)次を除く競売業
   1)タイの美術、工芸、遺物で、タイ国の歴史的価値のある古美術品、または
    美術品の国際的入札による競売
   2)省令で定めるその他の競売
(13)法律で禁止されていない地場農産物の国内取引。ただし、国内で受け渡しをしない先物取引を除く。
(14)全てを含む最低資本金額が1億バーツ未満、または1店舗当たりの最低資本金額が2
  千万バーツ未満の全商品の小売業
(15)1店舗当たりの最低資本金額が1億パーツ未満の全商品の卸売業
(16)広告業
(17)ホテル業、ただしホテルに対するサービスを除く
(18)観光業
(19)飲食店
(20)種苗、育種業
(21)その他のサービス業、ただし、省令で定める業種を除く(注1)

(注1)別表3については、外国人事業委員会の了承により担当の商務省事業発展局長が許可できることになっている。その中でその他のサービス業のうち省令で定める業種は例外とされているが、これについては2013年省令(2016年、2017年、2019年に業種追加改正)で、証券業〈14種類〉、先物取引、金融業、生命保険、損害保険、外国企業の代理業、駐在員事務所などが規制の例外として指定された。従って外国人事業法委員会の審査を受ける必要がなくなった。ただし、業法などによる規制はあるので、詳細な内容は、この省令によりそれぞれの専門家と相談されたい。
(注2)サービス業でも技術レベルを高めるなど、国家にとって有益であれば認められるケースもあるので、BOIの奨励対象となっていないものも、BOIと先ず相談し、BOIの認可が得られない場合は、安易にタイの資本を51%入れる前に、まず、本ホームページ主宰者、商務省外国人事業法委員会の事務局とも相談してみることである。

4. 資本金について
本法では、最低資本金という概念があるが、法の第4条の定義では、タイで登記された外国人の場合、外国人の資本金を指し、まだ登記されていない法人、個人の場合は、外国人がタイ国内で事業を始めるために持ち込んだ外貨を指すことになっている。

そして法14条では200万バーツ以上で,省令で定めることになっているが、最終的には、2019年の省令では、タイで事業を始めるときは、200万バーツ以上と定められている。

また、法の末尾の規制業種で委員会の許可を得なければならない場合は、前述の省令で300万バーツ以上と定められている。

この規定は、法第14条の第4項で、外国人が本法の発効以前に事業を始めており、その収益を投入して別の事業を始める場合や、資本参加する場合には適用されない。

5. 外国人事業委員会(事業認可と規制業種の見直し)
 本法では「外国人事業委員会」を設置、委員長は商務省次官で、その任務は概ね次の通りである(26条)、
(1)省令、勅令発布に際し大臣へ具申すること
(2)年に一回以に外国人の事業について調査報告し、大臣へ提出すること.
(3)その他の意見を大臣へ提出すること.
  委員会の責務として、年に1回以上業種を見直すことになっているが(9条)、現在まで前述の見直しが行われている。
  旧法でも似たような規定であったが、委員の構成が変わっている。旧法では、委員長は新法と同様商務省次官で、委員は工業省次官、外務省次官、国家社会経済開発委員会事務局長務局長、国家安全委員会事務局長、投資委員会事務局長、労働局長、国内商業局長、事業発展局長であった。
 新法では、これがかなり拡大されていることである.官庁は次官、局長ではなく代表と表現してあるが、局長以上が要求されている.官庁では大蔵省、農業・協同組合省、運輸通信省、内務省(旧法の労働局長は内務省に属していた)、科学・技術・環境者、教育省、省保健省、消費者保護委員会、国家警察事務局が加わったほか、旧法にはなかった民間代表であるタイ国商業会議所、タイ国産業連盟、タイ国銀行協会(いずれも理事以上)が加わり、更に商務大臣が任命する学識経験者5名以内が加えられている

6. タイ人の名義借りについて(罰則は重くなった)
 旧法でも行われていた抜け道に、外国人に規制された事業を営む際、タイ側の持ち分が51バーセントであればタイ企業扱いとなり自由に事業を営むことができるところから、タイ人の名義を借りてタイ国籍者に株を持たせ、実質的には外国人が全額出資、規制事業を許可なく営むという方法であった。これは旧法でも新法でも違反として明示してあるが、旧法では罰金3万パーツから50万パーツであった。しかし、新法では、3年以下の懲役もしくは10万パーツから100万バ-ツの罰金、または、両方の併科と非常に重くなっている(36条)。

 ただし、会社登記の段階で名義借りを防止する目的で、商務省事業発展局中央登記局では、2006年7月20日付登記規則102/2549で、外国人とタイ人が出資する会社登記に当たりタイ人本人の資金に関する銀行の証明書等を要求していたが、その規則を廃止して、2012年11月22日付商務省事業発展局長名による、登記に関する以下の内容の命令を出している。

パートナーシップもしくは株式会社の登記申請者は、以下のいずれかの場合、タイ国籍者でパートナーもしくは株主となる者全員について、本人の財政状況について銀行による資料および証明書を提出しなければならない。
(1)パートナーシップもしくは株式会社で、外国人のパートナーもしくは株主の、出資金もしくは登録資本金の持分が50%を超えない場合。
(2)株式会社で、外国人の株主はないが、外国人が単独もしくは連名で会社を代表する署名権を有する取締役である場合。
(おわり)