icon-anchor タイ国の1998年労働者保護法のあらまし

タイ国の1998年労働者保護法のあらまし

I. タイの労働法について(労働法はほぼ揃っている)
タイ国も1946年来労働法があるにはあったが、労働者を本格的に保護するには、1972年の「労働者保護に関する内務省令」を待たなければならなかった。1993年には労働省が創立され、労働行政は内務省労働局から同省に移された。その後、1998年に上記内務省令に代わるものとして「1998年労働者保護法」が制定された。
タイの労働法を挙げてみると以下のようであるが、日本でいう労働三法はタイの場合、日本の「労働基準法」がタイの「1998年労働者保護法」に該当、「労働関係調整法」と「労働組合法」がタイの「1975年労働関係法」に相当する。
日本に比べれば、労働法は少ないが、基本的な労働法は揃っていると評価すべきであろう。
タイの「1998年労働者保護法」はつい最近のものであるが、1993年までは労働行政は内務省労働局が担当していた。そして、タイの政治が軍事政権から民主化への道を歩み始めた1972年に革命団布告第103号として労働者保護に関する法律が制定され、それが1998年まで続いたのである。
その間、1993年に中央政府の機構改革で労働省が新たに設立されてからも暫く革命団布告第103号が続いていたが、前述の革命団布告を改定する形で「1998年労働者保護法」が制定されたのである。

2.労働法と判例
ここでは労働者保護法について述べるが、日本の労働基準法も同様、労働者を保護するための最低の条件を定めているのであるから、個々の事例については必ずしも法に定めがない。その場合、労働省がどう考えるかも重要であるが、法の最終的な解釈は最高裁判所の仕事であるから、判例を頼りにしなければならない。日本では判例以外にも行政判断である通達がたくさん出ており一般に公表されているので見通しはつけ易いがタイではそれは期待できないので、判例を見ることになる。
従って、法律的に疑問があれば、労働判例に通じた専門の弁護士を使うことが肝要である。
また、1979年労働裁判所設置、訴訟法の51条の2項で労働裁判所は最高裁の判決文、命令の写しを速やかに労働省へ送付することという規定があるので、労働省は判決文に目を通す機会はあるのであるから、判例に沿った行政判断は可能となっているのである。

3.就業規則と法
(1)就業規則の法定記載事項
 10人以上の常用従業員を雇用する使用者は、次の内容を含むタイ語の就業規則を作成、従業員に公示すると同時に、10人以上となった日から7日以内にその写しを労働官に提出しなければならない(108条)。労働官は法に抵触する就業規則を一定期限内に修正するよう命令することができる(108条3項)。
1)労働日、通常の労働時間及び休憩時間
2)休日及び休日に関する規則
3)超過勤務及び休日勤務に関する規則
4)賃金、時間外賃金、休日賃金に関する規則、支払日、支払場所
5)休暇に関する規則
6)規律及び罰則
7)苦情申立
8)解雇、解雇補償金および特別補償金
(2)苦情申立
苦情申立については、少なくとも以下の規定を置かなければならない(109条)。
1)申立の範囲
2)手続き
3)審査、検討
4)解決方法
5)申立人及び関係者の保護(申立人を不利に扱わない)
工場立ち上げの前は超多忙となる。あれもこれもと仕事が押し寄せてくる。早めに弁護士等専門家と打ち合わせて法にかない、現場に則した就業規則を作っておくべきである。
(3)労働条件の明示
日本では、労働基準法15条で労働契約を締結するときは労働条件を明示しなければならない規定になっている。タイの労働者保護法には同様に規定はないが、あとで聞いていないなどのトラブルを避けるためには、少なくとも重要な事項については事前に明示し(雇用契約書上明確にして)労働者の署名をとっておくのが望ましい。タイ人と長く付き合っていると何でも事前に明確にしておくことが重要で、普通のタイ人は事前に約束したことは守るのである。
(4)就業規則と労使協約
就業規則を作成、変更する場合、日本では労働基準法90条により、労働者の過半数が組合員である労組、または過半数を代表する者の意見を付して労働基準監督署に届け出ることになっており、就業規則は使用者の経営権の行使としての位置づけにあるが、タイの場合は、労働関係法の部でも述べるように、20人以上の職場では日本でいう労働協約がない場合は就業規則を労使協約(タイの労使間の協定は日本の労働協約、労使協定とは成立の条件が異なるので、ここでは労使協約という言葉を使用する)とみなすという規定がある。
労使協約は本来労使が対等の立場に立って協定するものであるから、労使協約がない場合就業規則の変更には労働者の同意が必要となることに注意されたい。

4.労働日、休日、休暇
(1)労働日 
法第5条の定義によると労働日とは「労働者が通常働くように定められた日をいう」となっている。そして休日とは「週休日、祝祭日または年次休暇の日として労働者を休ませるよう定められた日をいう」となっている。それから休暇日とは「労働者が病気、不妊手術、必要な用事、兵役、研修または技能の開発訓練、または出産のため休む日をいう」と定義されている。
逆に、労働日以外は週休日、祝祭日、年次休暇または休暇以外は労働日となる。
(2)週休日
法第28条では、1週間に1日以上の週休日を与える義務がある。週休1日制は工場ではまだ残っており、官庁、銀行、事務所等は週休2日制であり、工場も隔週で週休2日など、週休2日制の方向に向かっている。
週休日は使用者が就業規則で定めるものであるが、労働者と事前に合意して特定の日を
を週休日とすることもでき、ホテル、運輸、林業、へき地での業務その他省令で定める業務については週休日をまとめること、繰延べることを事前に合意することもできる。ただし、連続した4週間以内にとらなければならない。従って、ホテル、運輸等では第1週から第3週まで週休なしとし、第4週目に4日以上の週休をとらせることが可能である。
(3)祝祭日
タイには日本のように「国民の祝日に関する法律」に該当する法律がなく(法律で定められているのは5月1日のメーデーだけ)、通常は中央銀行が銀行向けの告示で定める祝祭日を参考に、使用者が12月に翌年度の祝祭日を定めて労働者に公示することが行われている。その場合、5月1日は必ず含め年間13日以上とすることが求められている(29条1項)。そして、祝祭日と週休日が同一日となったときは祝祭日の代休をその翌労働日に与えなければならない(29条3項)。
(4)年次休暇
1)労働者の権利としての年次休暇
 満1年間就業した労働者は1年間に最低6労働日の年次休暇をとる権利がある(30条)。この条文は解釈(学説)が分かれており、この条文を普通に解釈すると最初の1年間は年次休暇はなし、次の1年間は最低6労働日の権利があると解釈できるのであるが、判例および労働省の解釈(ホームページ上のQ&A)では、1年を経過するとき6労働日の権利が生じ、2年目も最6労働日であるから2年目は最低合計12労働日の権利が生じると解釈している。
タイ語の原文を見ても判然としないタイ語であるが、企業によっては、最初の1年間も6労働日の年次休暇を与えている企業もあり、その方がもめなくて済むように思われるが、30条3項では満1年継続して就業していない労働者に対して就業期間に比例して年次休暇を定めることができると定めている。
年次休暇は、通常計画的にとることが求められるが、30条2項では使用者が事前に定めるか、労使で事前に合意することができると定めている。
また、消化しなかった年次休暇は繰越すことを事前に労使で合意できると定めている(30条3項)
2)年次休暇の買取り
日本では年次休暇をとらせないで報酬を払って働かせることを年次休暇の買取と称し法違反とされている(厚生労働省通達)。これはILO条約**号を援用しているのであるが、その趣旨は労働者の健康を維持するためには年次休暇が必要という趣旨である。ただし、この条約では加盟国の事情は考慮することになっている。
タイでは、第25条において休日(年次休暇を含む)に労働させてはならないと定めているが、連続した作業を要する場合、緊急の場合、ホテル、レストランなどは可能とさだめている。それに製造業でも適時、事前に労働者の承諾を得て必要な範囲内で休日に労働者を働かせることができると定めている。
そして64条において、週休日、祝祭日、年次休暇に働かせた場合、休日勤務手当、休日時間外勤務手当を支払うよう定めているのである。その場合の割増手当は本節5の(2)を参照。
さらに、非違行為がないのに解雇する場合は権利として有する未消化有給休暇に対する手当を支払うことを要し(67条1項)、労働者が自発的に辞任するか使用者が解雇する場合、非違行為があるなしにかかわらず、未消化繰越年次休暇の手当を支払わなければならない(67条2項)。
つまり、使用者が解雇する場合は、未消化分年次休暇と未消化繰越年次休暇の手当を支払わなければならず、労働者が非違行為により解雇された場合は未消化分繰越年次休暇の手当を払わなければならないのである。
(5)休日が有給である場合、無休である場合
 以上の週休日、祝祭日、年次休暇が労働者保護法で定義する休日であるが、月給制の場合、以上の3種の休日は有給である。従って、月給を時給に換算する場合、月給額を30で5割って、その結果を1日当たりの時間数で割って求める(68条)。
日給制、時給制、出来高制の場合、週休日のみが無給となっている(後述の有給休暇は有給)。