icon-anchor BOIとの付き合い方

 筆者へBOI に関する問い合わせがタイの日系企業(BOI 認可企業)からよく寄せられるが、 「それは貴社に発給された奨励証書に書いてありますので、ご覧下さい」と回答することが多 いのである。奨励証書は発給された段階では、翻訳されて読まれるものの、時間が経つにつれ、 忘れられ、責任者が交代すれば、読まれることもなく、金庫の中に眠っていることもある。そ こで、今回は奨励証書の性格から、BOI 事務局とどう付き合うかについて述べてみたい。

1)BOI 事務局は単なる行政機関ではない、サービス機関でもある。

 BOI は首相を委員長、工業大臣を副委員長として、タイの投資政策を策定、重要な投資案件の許認可を行っている。BOIの活動の根拠は1977年投資奨励法(最新改正2001年)であり、BOIの権限委譲により事務局は案件の審査のほか様々な活動を行うのであるが、その一つに、「投資情報サービスセンターを設置し、投資に関心を有する者および投資家に対して、投資のための投資環境の情報提供、資料整備、合弁相手の発掘その他の便宜供与を行うこと」というものがある(1977 年投資奨励法13 条)。つまり、行政機関であり、サービス機関でもあるのである。
 従って、BOI 認可企業が、上記の活動範囲内にある事項をBOI 事務局へ持ち込んで相談、依頼することができるのである。また、事務局の1階には、統計など有益な資料を備えた図書室が設けられ一般に公開されている。インドシナの情報も担当を置いて情報を提供している。

2)奨励証書の性格は一種の契約書、契約は守らなければならない。

 認可企業は当初認可の時点で、「投資奨励認可通知書」をBOI事務局から貰っている。この通知書には回答書が添付され、通知書に盛り込まれている恩典と条件を受け入れるかどうかを回答することになっているのはご承知の通りである。通知書に記載されている恩典と条件が気に 入らなければ、変更を要請する道が開かれているのである。形式的とはいえ、決して一方的な 押し付けではないのである。もっとも、恩典の内容と条件はBOI において首相を委員長とする 委員会において定められており(最近の大きな改正は2015年1月1 日)、当方から文句をつける余地はないのであるが、その道は設けてあるのである。
 そうなると、通知書に対する回答に基づき発給された奨励証書は、投資家とBOI の間で交わ された一種の契約書ということができよう。ちなみに、タイ国工業団地公社の場合は、工業団 地入居者と公社の間で「入居に関する契約書」と明確に銘打ってあり、双方が契約書に署名することになっている。
 また、BOI は奨励証書にないことは要求していない。政策が変更されても遡って適用はして いない。従って、奨励証書は、恩典を付与する約束とその条件を奨励企業に示し、奨励企業は 条件を守る約束をし、その代わりに恩典が与えられるのである。BOI 認可企業で不明なこと、 条件の変更(例えば製造品目の変更など)の必要があれば、先ず第一番目に契約書に戻る。つまり奨励証書を検討することである。それから、BOI 事務局へ相談することである。以上のことを守らないで、BOI と相談せずに条件を守らず勝手に新製品を製造するなど、いわば契約違反を行い、BOI から違反の部分の恩典を取り消されるケースは決して少なくはない。
 1977年投資奨励法では54条において「被奨励者が委員会の定めた条件に違反し、またはその条件に従わない場合、委員会は当該被奨励者に認めてきた恩典を全面的または部分的に取り消すことができる。」と定めている。それでは、違反は絶対に許されないかといえば、同条項の但 し書きに、違反が故意でない場合、所定期限内に改善するよう警告書を出すように定めてあるので、BOI は柔軟性も持っているのである。
 いずれにしても重要な、いわば契約書であるから、交代の場合、後任者に十分説明して引き継ぐことが肝要である。

3)BOI 事務局の立入り調査

 BOI は恩典と引き換えに条件を付しているのであるから、認可企業が条件を守っているか監督することができるのである。この点についてはBOI 事務局も官庁の性格を帯びている。1997年投資奨励法14 条において「担当官は、必要に応じ、申請者および被奨励者の事業所内に、就業時間に立入り、調査することができる」旨定めてある。また、同条項但し書きで、立入り調査を行う場合、緊急の場合を除き、文書により事前に通知しなければならないとある。

4)BOI 事務局の他省庁に対する責任

BOIの恩典には、輸出製品製造のための原材料輸入税免税がある。法人所得税の免税もある。
また条件として環境保護の注意義務を課している。このような恩典、条件は他省庁の権限に属することである。そうなると、BOI 事務局は他省庁の権限に属することを認可企業に守らせる義務があるのである。
 例えば、BOI の奨励証書に記載されていない製品を勝手に製造、そのための原材料の輸入税を免税にしてもらい、後になって立入り調査で条件違反が発覚したケースは、筆者が知っているだけでも数件ある。これは、故意ではなく、奨励証書をよく読んでいなかったことに起因 するものである。
 しかし、この例の場合、BOI は認可企業が条件を守っていると思い込んで、税関に対して輸入税免除の文書を発行したのであるから、BOIは監督責任と職務怠慢を他省庁から問われることになる。こうなると、BOI 事務局としては穏便に事を済ますことはできなくなる。少なくとも違反の部分については恩典を取り消さざるを得ない。こういうこともあるので注意が必要である。
  奨励証書には、「特典を変更、追加、または条件を変更する場合、被奨励者は本奨励証書の変更追加を受けるため事務局へ申請しなければならない」と明記してある。何か変更があれば必ず奨励証書をよく検討し、BOIと相談することである。

5)投資奨励法は他の法令に優先する

BOIの活動の根拠法である投資奨励法の冒頭第3条において、「全ての法律、規則及び細則は、本法に関係し、または本法の規定に反し、もしくは矛盾する限り、本法によって代えられるものとする」という条文がある。

 例えば、外国人就労許可は「外国人就労法」によって定められ、さらに警察庁の入国管理局のビザ延長に関する規則があり、二重の関門があるのであるが、BOI認可事業を営む場合、BOIは奨励証書の特典欄で、BOI認可事業に就労する外国人の入国ならびに就労を認めているのであるから、この二重の関門は、BOIさらにIEAT法にも第3条で同様の規定があるので、一般と異なり

担当の労働省、入国管理局の規則は適用されないのである。

 また、法人所得税も、国税法典にはBOIの免税措置に関する規定はないが、BOIから免税特典を貰えば、これが国税法典に優先するのである。

 ただ、BOIが直接には関係しない、環境法、工場法、労働関連法などは当然守らなければならないのはいうまでもないことである。

6)被奨励者の保護

 投資奨励法の第5章は「保証と保護」となっており、国有化しないなどの保護が約束されているが、第51条では、被奨励者の何らかの問題、障害に面した場合、委員長は速やかに援助を与えるよう命令することができる旨の規定がある。

 さらに、第52条では「租税体系、税率、または租税や手数料の徴収手続きが投資奨励の障害になっていると認定された場合、委員会へその旨の申立が寄せられたか否かにかかわらず、委員長は関係機関または国営企業に対して是正措置を講ずるよう命令することができる」と規定されているのである。

 BOIの委員長は法では首相となっている。諸官庁の理不尽な対応に面した場合、BOIへ直訴することも可能になっていることに注意されたい。

   2016年2月25日  元田時男

(おわり)

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