タイと日本の労働法の重要項目の比較

タイと日本の労働法の重要項目の比較

2007年6月1日(2020年4月16日更新)  元田時男
用語:
(タイ) 保護法:1998年労働者保護法 
関係法:
1975年労働関係法 
(日本)労基法:
労働基準法(1947年法49) 
契約法:
労働契約法(2007年法128号) 
労組法:
労働組合法(1949年法174) 
調整法:
労働関係調整法(1946年法25)

 
(労働基準) 

タイ

日本

備考

 

 

 

(雇用契約)

*男女平等の取り扱い(保護法15条)

 

 

 

 

 

 

 

*労働条件協約が効力を生じたのち労働条件協約に反する雇用契約は禁止、ただし労働者に有利な場合を除く(関係法20条)

 

 

 

*「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」

*男女平等の取り扱い(労基法4条)

*労基法の基準に達しない労働条件を定めた労働契約は、その部分は無効(労基法13条)

 

*労働協約に違反する労働契約は違反部分は無効(労組法16条)

 

 

*均等待遇(労基法3条)

*賠償予定の禁止(労基法16条)

*労働条件の明示(労基法15条)

 

(保証金の預かり)

*会計など使用者の金銭、資産を管理する労働者以外からは保証金を預かること、保証人を要求することができない(保護法10条)

 

*特に規定はないが、一般労働者も保証人を求める慣行がある。

 

*日本の「身元保証に関する法律」では、期限は5年、使用者は職責変更等について保証人に通知義務あり。

(労働時間の原則)

*1日8時間、1週間の合計48時間を超えない(保護法23条)

 

*1日8時間、1週間の合計40時間を超えない(労基法32条)

 

休憩時間はタイ、日本とも1日原則1時間(8時間の場合)

(時間外、休日労働の原則)

*時間外は事前にその都度労働者の承諾を必要とする(保護法24条)

*休日に労働者を使用してはならないが事前にその都度労働者の承諾を得て働かすことは可能(保護法25条1項)

 

*時間外、休日は36協定期間中に命令することができる(労基法36条)

 

*日本は時間外労働、休日労働の義務が生ずるかについては学説は分かれている

(時間外、休日労働時間の限度に関する原則)

*1週間に36時間を超えない(保護法26条、省令3号)

 労基法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度に関する基準

 例えば時間外は1週間の場合15時間を超えない、1ヶ月の場合45時間を超えない

*日本は36協定において時間、休日について協定しなければならない(労基法施行規則16条)

(時間外労働手当て)

*時間当たり労働賃金の1.5倍以上(保護法61条)

(注)休日の時間外労働は3倍以上

 

*1.25以上(労基法37条1項、労基法37条第1項の時間外および休日割増賃金に係る率の最低限度を定める政令)

 

*日本は休日の時間外労働に関する規定はない

*日本は、2008年労基法の改正により、月60時間を超えた時間外労働については5割以上の割増賃金となり2010年4月1日から施行、ただし、中小企業の場合は適用を猶予、施行後3年経過したとき再検討

また、労使協定により上記割増賃金の代わりに有給休暇を与えることができる

(休日労働手当て)

*有給の場合1倍以上、無給の場合2倍以上

 

 

*1.35倍以上

(同上)

 

(休日)

*週休は1週間に1日以上、週休と次の週休との間の日数は原則6日以上(保護法28条)

*年に13日以上の祝祭休日(5月1日を含め使用者が決定する(保護法29条)

 

*毎週少なくとも1回(労基法35条1項)

 

*「国民の祝日に関する法律」による休日は同法3条により休日

 

 

 

(年次有給休暇)

*満1年間継続して労働した労働者は1年に6労働日以上を取得する権利あり(保護法30条1項)

 

*使用者は雇入れの日から6ヶ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した場合、継続、分割した10労働日以上の有給休暇を与えなければならない

(労基法39条1項)

*1年6ヶ月以上継続勤務した場合、6ヶ月経過日から起算した1年ごとに以下の通り上記の日数に加算

1年1労働日

2年2労働日

3年4労働日

4年6労働日

5年8労働日

6年以上10労働日

(労基法39条2項)

 

ILOの「1970年有給休暇に関する条約」では6ヶ月勤続を資格ありとするよう規定している(タイ、日本とも未批准)

(その他の休暇)

*病気休暇、年間最高30日有給(保護法32条、57条1項)

*不妊手術、医師の判断による日数は有給(保護法33条、57条2項

*軍役休暇、最高60日有給(保護法35条、58条)

*出産休暇、最高98日うち最高45日は有給(保護法41条、59条)

*その他就業規則による休暇の権利あり(保護法34条)

 

*就業規則による

 

(女性労働者保護規定)

*危険労働の禁止(保護法38条、39条)

*妊娠女性の22時―6時までの労働(例外あり保護法40条)、時間外労働、休日労働禁止(39条)

*98日を超えない出産休暇(保護法41条、最高45日は有給―保護法59条)

*産前産後の臨時の業務に変更を要求する権利あり(保護法42条)

*妊娠を理由として解雇できない(保護法43条)

 

*坑内労働禁止(労基法64条の2)

*危険有害業務の就業禁止(労基法64条の3)

*産前6週間請求でき、産後8週間は就業させてはならない(労基法65条1、2項)

 

 

*妊娠中の女性の請求により軽易な業務に転換すること(労基法65条3項)

*生後満1年に達しないとき1日2回各30分育児時間を与えること(労基法67条)

*生理日の就業が著しく困難な女性をその日に就業させてはならない(労基法68条)

 

*日本には「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」がある。

(年少労働者)

*満15歳未満の雇用禁止

 

 

 

*18歳未満の雇用に関する届出義務(保護法45条)

 

*原則22時―6時まで就業禁止(保護法47条)

*18歳未満の時間外労働、休日労働の禁止(保護法48条)

*18歳未満の危険労働禁止(保護法49条)

*年少者の賃金を他人に支払うことを禁止、保証金要求禁止(保護法51条1、2項)

*教育訓練のため年30日以内有給による休暇を与えること(保護法52条)

 

*満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで使用できない(労基法56条1項)

*親権者、後見人は未成年者に代わって労働契約をしてはならない(労基法58条1項)

*18歳未満を22時―5時まで使用できない、ただし交代制の場合16歳以上の男性は可(労基法61条)

*18歳未満の危険労働禁止(労基法62条)

*親権者、後見人又は行政官庁は未成年者に不利な労働契約は将来に向かって解除できる(労基法58条2項)

 

*親権者、後見人は賃金を代わりに受領することは禁止(労基法59条)

 

タイの民商法典27条では、未成年者で法的行為能力のない者は、親権者等の了解により労働契約を締結することができ、

了解が得られない場合、了解するよう裁判所へ請求できることになっている。

(解雇)

*解雇できる場合(保護法119条)

(1)職務に対する不正、使用者に対し故意に刑事犯罪

(2)使用者に故意に損害を与えた

(3)過失により重大な損害を与えた場合

(4)就業規則、使用者の合法的命令に違反し、警告書を受けた場合、重大な場合警告書は不

(5)正当な理由なく3日(間に休日の有無を問わず)連増して職務を放棄した

(6)最終判決により禁固刑を受けた

*解雇できない場合

(1)妊娠を理由に解雇できない

(保護法43条)

(2)労組組合員であることを理由に解雇できない(関係法121条(2))

(3)労働運動を理由に解雇できない(関係法121条(1))

(4)労働者委員会(日本の労使協議会、経営協議会に相当)の委員は労働裁判所の許可なしには懲戒、解雇できない(関係法52条)

 

*解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする(契約法16条)

*業務上負傷、疾病にかかり

療養のために休業する期間その後30日間は解雇できない(労基法19条1項)

*産前、産後休業期間その後30日間は解雇できない(労基法19条1項)

*就業規則の懲戒規則による

 

ILOの「使用者の発意による雇用の終了に関する条約(158号、1982年、タイ、日本とも未批准)」では4条において「労働者の雇用は、当該労働者の能力若しくは行為に関連する妥当な理由又は企業、事業所若しくは施設の運営上の必要に基づく妥当な理由がない限り、終了させてはならない」と規定している。

(解雇事前通告)

*給与日またはそれ以前に次の給与日に解雇することを通告するか、次の給与日の給与を支払うことにより即解雇(保護法17条2項)

*以上の例外

期間の定めがある場合(保護法17条2項)

 

*30日以上前に予告するか又は30日分の平均賃金を支払うこと(労基法20条)

 

 

*以上の例外

日雇い、2ヶ月以内の期間の定めある場合、季節的に4ヶ月以内の期間の定めがある場合、試用期間中(14日以上勤続の場合は必要)(労基法21条)

 

 

 

 

 

 

*タイの場合試用期間中でも事前通告は必要との判例あり(最高裁2364/2002年)、2008年の保護法17条2項の改正により、上記判例と同様の期間の定めのない雇用契約契となった

(解雇補償金)

*会社都合で解雇する場合、勤続120日以上の場合、勤続年数に応じて解雇補償金を支払うこと(保護法118条)

*労働者の非違による場合、解雇補償金は必要なし(保護法119条)

 

規定なし。

通常、退職金規定がある