タイの闘鶏と闘魚の想い出

タイの闘鶏と闘魚の想い出

2001年10月13日 元田時男

 

 賭博というものは、古今東西人間がいる所には付き物のようです。日本では「古事記」に記述があるそうですし。また、中国にも古くからあるようです。もともと賭博なる言葉は中国の唐に時代に現れ、更に博ちなる言葉が論語にも出て来るそうです。また、古代エジプトでは紀元前3千年ころにさいころを使った賭博の記録があるそうです。

 私は、親が賭博は大嫌いで、遺言のようなもので賭博なるものはパチンコ、宝くじ、競輪、競馬、マージャンもやりません。マージャンと言えばサラリーマンの社交にも使われ、マージャンのできない者は仲間はずしとなるような感がしないでもありませんが、私は、40年のサラリーマン生活のなかで仲間外しにも、不利を被ったことも記憶にありませんので、石部金吉もそれなりに生きて行けると妙な自信を持っています。

 さて、前置きが長くなりましたが、タイにもご多分にもれず賭博はあります。タイ語ではガーン・パナンと呼んでいます。賭博をすることはレン・ガーン・パナンです。レンは遊ぶですから、文字どおり賭博は遊びですね。しかし、遊びにしては、身を持ち崩したり、財産を取られたりと結果によっては深刻な事態へと発展します。

 タイの賭博も沢山種類があるようですが、私が見物したもので一番印象に残り忘れられないものに闘鶏と闘魚があります。いずれもバンコクでは見たことがなく田舎で行われています。バンコクの近くですとノンタブリ県でいずれも見ることができます。私は60年代に見たきりで最近も残っているのかどうか定かではありません。

 先ず、闘鶏ですが、これはチョン・ガイと呼びます。チョンはぶっつかる、衝突でガイは鶏です。私が見た闘鶏場は木造の円形状の建物の真ん中の小さな丸い囲いが舞台で、その周りを、これまた木造の見物席が野球場を小さくしたように何階にも円く囲んで、見物人は上から囲んで見るようになっています。

 鶏の持ち主は近在のお百姓のようで、朝早くから鶏を籠に入れて集まってきます。どういう組み合わせになっているのか分りませんが、勝負が始る前には掛け金である百バーツの赤い紙幣があちこちをめまぐるしく行き来します。鶏は飼い主の手の中で互いに見合ったあと、放されますと、猛然とくちばしでつつき合います。こうなると、見物席は蜂の巣をつついたように沸き上がり、互いに応援合戦で耳も割れんばかりの賑わいです。

 しばらく激しく戦った後、急に一羽が首を下げて、肩をすぼめて逃げます。これで勝負ありであります。観衆はまたもやワット沸き、赤いお札があちこちを行き来します。誰が胴元なのかはっきりしない程の素早さです。それで喚声が静まると一組の勝負は終わり、次の勝負へ移ります。一組の勝負は約10分位であっと言う間に終わります。

 闘鶏は鶏に剣を付けて相手をとことんやっつけるものも世界にはあるようですが、タイの闘鶏は素手であります。負けた鶏がトコトコと逃げる様が何だか哀れであります。肩をすぼめるところが、何か生活に負けたサラリーマンを思わせるものがあります。

 一方、闘魚は闘鶏とがらりと変わった趣があります。闘鶏場は円形の建物と喚声で直ぐそれと分りますが、闘魚は静かなものです。円形ではなく普通の木造の大きな小屋で、壁はなく吹きさらしになっています。そこに矢張り朝早くから魚を透明のガラス瓶に入れて近在のお百姓が集まってまいります。魚の大きさは4ー5センチほどで、見たところ獰猛な顔もしていなくて平凡などこにでもいるような魚であります。闘魚はガット・プラーと呼びます。ガットは噛み付くでプラーは魚です。つまり魚の噛み付き合いであります。

 勝負は二匹の魚が透明でやや大きな瓶に入れられたところから始ります。闘鶏と違って一つの瓶の回りを4−5人が囲み、それが10組位同時に行われています。瓶に入れられた二匹の闘魚は直ぐ戦うと思えばそうでもなく、しばらく見合った後思い出したように二匹がお互いの口をめがけて突進します。びんの周りを囲んだ見物人、すなわち賭けた者は一斉に緊張しますが、つついたと思ったら離れてしまいます。この間、見物人は闘鶏と異なり一声もかけません。赤いお札が飛び交うこともありません。静かなもので、シーンとした静寂の中で緊張感が漂います。こうした光景が建物の中のあちこちで繰り広げられます。 しかし、2回目のつつき合いはなかなか始らず、好い加減退屈したころ、ちょこっとつつき合い、また、離れてしまいます。これを何回も繰り返しますが一向に勝負がつきそうにありません。退屈して、近所に食事に出かけ、2時間ほど経って帰ってきますと、まだ同じ魚がお互いににらみ合っています。

 それよりも驚いたことに見物人は何時間もじっと魚を見つめて、身じろぎもしないことです。こうなると、魚より見物人を見る方が面白くなります。こちらの目はだんだんと真ん中に寄ってまいります。魚はと見ると、どうやら一匹が優勢のようで劣勢の方は、口を大部削り取られて弱っています。見物人はと見ると、思い出したように魚がつつき合うと、今までの無表情な顔に一瞬緊張が走ります。にやりとする方は勝っている方に賭けているのでしょう。眉にしわ寄せているは負けそうなのです。

 こうして延々と、しかも静粛の中に繰り広げられた戦いも一方が弱って、腹を上に見せてくると勝負はついたことになります。そこには闘鶏のような喧騒はありません。また一瞬の勝負でもありません。朝から延々とつづく長丁場の戦いをじっと座り込んで、目を一瞬もそらさず応援している様は、一種異様な感じがします。矢張り大金がかかっているからでしょう。

 さて、賭博はどこでも禁制の対象であります。タイも例外ではありません。それどころか日本以上に賭博の元になるようなゲーム全般を取り締まっています。マージャンのように日本で盛んなゲームもタイでは厳しく取り締まられています。

 タイには賭博法プララッチャ・バンヤット・ガーン・パナン2478(1935年)という法律があります。これによりますと、賭博は3種類に分けられています。1は絶対に禁止されているもので、フアイ(中国から渡来した
札のようなもの)など28種類が指定されています。これに違反すれば6ヵ月から最高3年の懲役か500バーツから5千バーツの罰金、または両方であります。

 2は、バンコクなら警察、バンコク以外は県の許可を取り、手数料を納めればできるものであります。この中にはチョック・ムアイ(拳闘)、パイ・ノック・グラジョーク(マージャン、パイは札、ノック・グラジョークは雀)、チョン・ガイ、ガット・ブラーなど14種類が指定されています。これに違反すれば、3年を越えない懲役か2千バーツ以下の罰金、または両方です。

 バンコクには警察から許可を貰ったと称するマージャン場が日本人専用のナイトクラブに数軒あり、よく通う日本人がいます。最高で3年の刑を食らったら大変ですから、そこは本当に許可を貰っているのか確める必要はあるでしょう。今のところ、掴まったというニュースはありませんので、大丈夫なのでしょう。でも、こっそり個人の家で遊んでいると密告される可能性もあります。

 最後の3は許可なくできるものであります。しかし、これは、法律をよく読んでみると解釈が微妙であります。