法人の法律違反に関する罰則について

タイの「1956年法人の法律違反に関する罰則について」

(2016年11月1日:元田時男)

1.はじめに

タイの会社法(非公開、公開)には、日本の商法486条以下にある罰則がないので不思議に思われる向きもあろうかと思うが、実は会社法とは別にこの法律があり、会社のみならず、パートナーシップ、協会、財団についても法律違反に対する罰則があるのである。

この法律の正確な訳は「1956年登記済パートナーシップ、有限パートナーシップ、株式会社、協会、財団に関する違反を定める法律」であるが、余りにも長いので上記のように省略した。

この法律の存在は余り知られていないのであるが、日系企業の大方が非公開株式会社であり、日本側出資100%という例も多いので、会社法違反というものに対して注意が払われていないのが現状であるが、違反は違反であり、またタイとの合弁であればトラブルが発生することもあるので、非公開株式会社に絞ってここで紹介しておきたい。

なお、この法律は1956年の制定と古いのであるが、ほとんどの条項が1992年に改定されていることも付記しておきたい。

2.もっとも重い罪

 まず、もっとも刑罰の重い条項から紹介したい。取締役は株主総会で選任され、定款と総会の決議を忠実に実行する義務がある。タイの非公開会社法である民商法典1168条において取締役は、その経営において注意深い経営者としての勤勉であることが要求され、さらに1169条において、会社に損害をかけた場合、会社は賠償を請求することができ、株主も請求の権利があるのである。このように重要な責任を担う取締役の行為に不正があった場合、この法律では重い刑罰を科してしる。

具体的には本法42条において、会社、株主等に損害をかける目的で以下の行為の行った場合7年以下の懲役、もしくは24万バーツ以下の罰金、または併科である。

(1)帳簿、書類の改ざん、毀損など

(2)帳簿、書類に虚偽の事項を記載または重要な事項を記載しなかったなど

これは、「会社の経営に責任のある者」が対象になるのであるが、つまり取締役もその一人である。

大方の日系企業の派遣取締役にはこのような悪質な事例はないと思われるので、重い罰則もあることの注意を喚起するに止め、次に、日常の業務でうっかりできないことを以下に取り上げておきたい。

以下の2から8までは会社に対する罰則である。
2.非公開会社の株式に関すること
(1)株主名簿の備え付け

民商法典1138条では、指定された事項を記載した株主名簿をそなえなければならなことになっているが、これを備えていない場合本法10条で2千バーツの罰金が規定されている。大方の日系企業では、登記簿にある株主名簿で代用しているのが実態と思われるが、実は株主の変更が複雑になってくると、やはり帳簿上で操作しなければならなくなってくるので、実務上も必要である。これがないと上記の罰則があるので注意したい。

(2)株主の株主名簿の閲覧権

民商法典1139条で株主に与えられた権利であるが、これを拒否した場合、本法11条で2万バーツ以下の罰金である。

(3)自己株の所有、質受け

これは民商法典1143条で禁止されているが、これに対する違反は本法12条で10万バーツ以下の罰金である。

3.非公開会社の登記に関すること
 民商法典1146条では定款の変更は特別決議から14日以内、1157条では、取締役の選任は、その日から14日以内、1228条では増資、減資の特別決議は14日以内、合併の特別決議は14日以内、合併がなされたら各々の会社により14日以内に登記しなければならないが、それを怠った場合、本法13条により2万バーツ以下の罰金である。

また、民商法典1148条では、本店を有し本店の所在地、その変更は登記しなければならないが、それを怠ると方法14条により2万バーツ以下の罰金である。

4.登録資本金の表示
 非公開株式会社は、全発行株式について額面の25%を払込めば成立、あとは取締役の請求により払込むのであるが、民商法典1149条により払込済みの割合を明らかにしない限り、いかなる通知、広告、送状、書簡その他の書類で会社の登録資本金額を印刷、記述することはできない。これに違反した場合、本法15条により2万バーツ以下の罰金である。
5.株主総会に関すること
(1)民商法典1171条により、登記後第1回目の株主総会は登記後6ヶ月以内、その後は12ヶ月ごとに少なくとも1回開催しなければならないが、これを怠った場合、本法16条により2万バーツ以下の罰金である。

(2)民商法典1175条による総会召集の手続きを怠った場合、本法17条により2万バーツ以下の罰金である。
6.会計に関すること
以下の場合2万バーツ以下の罰金である。

(1)民商法典1196条に違反して貸借対照表を作成しなかった場合

(2)民商法典1197条に違反して決算書を、会計監査人の監査を受けず、総会に提出せず、総会の3日前に株主に送付しなかった場合

(3)民商法典1199条に違反して第三者に対して貸借対照表を開示しない場合
7.配当に関すること
(1)配当に当り民商法典1201条、1202条に違反して総会の決議なしに配当したり、法定準備金をつみたてずに配当した場合、2万バーツ以下の罰金である。

(2)民商法典1204条に違反して配当の通知を行わなかった場合、2万バーツ以下の罰金である。

(3)民商法典1222条では、新株の発行に際して、旧株主はその持ち株数に比例して引受ける権利があるが、その申し出をしなかった場合、本法21条により2万バーツ以下の罰金である。
8.社債に関すること
民商法典1229条で、非公開株式会社は社債を発行できないが、発行した場合、本法23条により5万バーツ以下の罰金である。
9.取締役に対する罰則
以上の2から8までは会社に対する罰則であったが、以下の場合は取締役など個人に対して科される罰則である。まず、取締役に対する罰則は以下のようになっている。

(1)民商法典1139条2項により、取締役は総会で選任され、退任した取締役の名簿を登記官に提出する必要があるが、それを怠った場合、本法26条により1万バーツ以下の罰金である。

(2)民商法典1172条2項により資本の半分を損失したとき臨時総会を招集しなかった場合、民主法典1174条1項による株主の総会招集要請による召集を行わなかった場合、本法27条により2万バーツ以下の罰金である。

(3)民商法典1199条2項により、総会で承認された貸借対照表の写しを承認から1ヶ月以内に登記官に提出しなかった場合、本法28条(1)により5万バーツ以下の罰金である。

(4)民商法典1206条に従う会計帳簿作成を怠った場合、本法28条(2)により5万バーツ以下の罰金である。

(5)民商法典1207条に従う株主総会、取締役会議の議事録の作成、保管を怠った場合、本法28条(3)により5万バーツ以下の罰金である。
10.取締役または会計責任者に対する罰則
ここで会計責任者とはタイ語で「プー・チャムラ・バンチー」と表現されているが、会計担当の取締役または会計に重大な責任を持つ者と解釈するのが妥当と思われる。取締役または会計責任者が、総会に対して虚偽の報告、事実の隠蔽を行った場合、本法38条により5万バーツ以下の罰金である。
11.会計監査人に対する罰則
 正しくない貸借対照表または会計帳簿を証明し、虚偽の報告をした場合、本法31条により1年以下の懲役もしくは2万バーツ以下の罰金、または併科である。
12.おわりに
以上のほかにも様々な罰則が規定されているが、上記はいずれも通常の業務で不注意で起きる可能性のあるもの、特に注意しなければならないものについて絞って紹介した。非公開株式会社には罰則がないのではなく、別の法律で定められているのである。本稿が日系企業の責任者の参考になれば幸いである。

(おわり)