労働法

FAQ:労働組合結成は法的に阻止できない。労組の活用。

A:まず、労働組合結成を阻止するような行動は日本でも「不当労働行為」として禁止されていますがタイも同様であることにご注意下さい。日本の労働組合法では7条において組合員であることを理由に解雇すること、組合結成をしようとすることで解雇または不当な扱いをすることを禁じています。

タイの場合、日本の労働組合法、労働関係調整法の2法に当る法律は「1975年労働関係法」でありますが、その121条、122条で、労働組合活動を妨害すること、組合員であることを理由に解雇すること、組合への入会を妨害する、脅迫により脱退させることなどを不当労働行為として禁止しています。「組合結成を阻止する」という明確な条文ではありませんが、どのような方法で阻止、または妨害してもこの121条、122条に違反することは明白であります。

この2条に違反した場合、同法の158条において6ヶ月以下の懲役もしくは1万バーツ以下の罰金、または両方の併科と定められています。

次に、「労働組合はないほうが良好な労使関係が保てる」というお考えのようですが、果たしてそういえるのでしょうか、考えてみていただきたいと存じます。

一見良好と見える労使関係であっても労働者の不満はあるのではないでしょうか。むしろ、外に出ないだけに内にこもって、あるとき突然爆発する例はタイにおいて枚挙にいとまがありません。不満はいずれ出てくると思っておいたほうが無難ではないでしょうか。

それであれば、むしろ法に則って規律ある労使交渉が行われるためにも労働組合はあった方がいいと考えることも可能かと存じます。

具体的に、労使交渉のルールは「1975年労働関係法」に盛り込まれています。要求書の提出は組合がない場合、要求書に関係する労働者の15%以上の署名を要し、かつ7名以内の代表を労働省令で定められた方法で選出することになっています。組合がある場合は、組合が代わって要求書を提出できますが、その場合関係労働者の5分の1以上が組合員であることが求められています。かつ、労働組合の規約には、かならず、ストライキ指示の手続き、雇用条件協約の承認手続きを含まなければならないようになっており、いずれの場合も要求書提出、交渉、交渉決裂、調停、調停不調、ストライキと、ルールが定められ、法に従わない労使紛争の解決は禁止されているのであります。

以前、このルールに従わない突然のストライキが起きることがよくありましたが、最近は非常に少なくなりました。それは労働運動家、または労働省などによる法の指導がだんだん徹底してきていることの証左でありましょう。労働者側が法に則った規律ある行動に出ることを期待するのであれば、むしろ組合はあった方がいいと考えることもできると思います。そして労使交渉は頻繁に行われた方がいいのではないでしょか。不満が内にこもって爆発するより、不満は早め早めに把握して対応することが肝心かと思います。

最後になりましたが、組合の結成は10人以上の発起人が必要で、労働省に登記し法人格を持つことが要求され、組合を代表する委員は当該組合の組合員であり、出生によりタイ国籍を有し、20歳以上であることが要求されている(労働関係法86条、87条、101条)ことを申し添えておきます。

FAQ:タイにおける時間外勤務の限度

A:1週間の合計36時間以内と定められています。法的根拠は以下の通りです。

タイの労働者保護法24条、25条では必要な場合事前に書面による労働者の承諾を受けて時間外(休日時間外を含む)、休日に労働をさせることができるようになっています。それが日本の三六協定と異なるところであります。そして26条で時間外、休日労働の合計は省令の定める時間数を超えてはならいと定められています。

その省令は「1998年労働者保護法に基づく省令第3号」であり、1週間に36時間を超えてはならないと定めています。これに違反した場合、使用者には6か月以下の懲役もしくは10万バーツ以下の罰金または併科と定められています(労働者保護法144条)。

FAQ:労働者は解雇補償金さえ払えば自由に解雇できるか。

A:確かにそのように理解している日本人はいますが、これは大きな誤解です。何故このような誤解が生じるかを考えてみますと、余り技能習得に期間を要しない若い単純労働者の場合、離職率の高いタイですと次の職場を探すには余り手間はかかりません。従って解雇補償金を貰って、一時的に資金が得られるなら辞めてしまう労働者が多いのです。

しかし、マネジャークラスになると事情は異なります。年齢も高くなっていますし、能力を身につけるために勤続年数は長くなっています。次の職場を探すのは、若い未熟練工よりも困難となります。また、配偶者、子供もあり、教育の問題を考えると、タイといえども職場を変えるのは簡単ではありません。不当解雇として労働裁判に提訴することは多くなります。使用者側が負けるケースも多いです。

そもそも、タイの労働法全体の主旨は、日本と同じく立場の弱い労働者を守るという考え方に立っています。従って、解雇制限は労働者保護法、労働関係法の至る所にあります。

まず、解雇できる場合を見てみますと、労働者保護法では、119条で以下のように定めています。

(1)職務に不正を働き、使用者に故意に刑事犯罪を犯した場合

(2)使用者に故意に損害を与えた場合

(3)過失により使用者に大きな損害を蒙らせた場合

(4)就業規則、使用者の正当な命令に従わず、警告を受けた場合

(5)休日を含み3日連続して職務を放棄した場合(正当な理由がある場合は除く)

(6)最終判決により懲役刑を受けた場合(過失による軽犯罪は除く)

このような理由がある場合でも、労働裁判では重大かどうかは争われることが多いのです。

逆に、解雇できない場合を見てみますと、労働者保護法43条では、女性を妊娠を理由に解雇できません。また、労働関係法では121条で日本と似た「不当労働行為」が禁じられていまして、例えば労働組合員であることを理由として解雇できません。また、同法第52条により労働者委員会の委員は労働裁判所の許可なく解雇できません。

労働関係法第52条では労働者委員会の委員を労働裁判所の許可なく解雇することはできません。

また、労使協定が有効期限であるときに、要求書に関係した労働者、労働者代表、労働組合の委員などを解雇することはできません。ここは非常に重要なことで、どこの企業でも賃金などをめぐる協定は必ずあり、通常1年は有効であります。また、要求書には殆どの労働者が関係(要求書への署名、代表の選挙など)していますので、解雇できません。

つまり、上述の119条の(1)から(6)までに該当しなければ解雇は本人が解雇補償金につられて辞める以外は困難ということになります。

ただし、技術革新などにより人員を整理しなければならない場合は、60日以上前に予告し、労働監督官に通知しなければならないと定めています。これも、もし、労働者から不当解雇と提訴されれば、労働裁判所は本当に技術革新などにより止むを得ないものか、人選に不公平がないかを審理することになります。

また、よく行われるのは企業が赤字体質で、日本でいう整理解雇を行う場合も、不当解雇と提訴されれば、労働裁判所は、企業努力をしたか、他に方法はないのか、整理する労働者の人選に不公平はないのかについて当然審理することになります。これらについて使用者側から裁判官が納得する説明がない限り不当解雇と判断されるケースはタイでも結構あります。

以上、見てきますと、タイの労働法では、日本の労働契約法第16条のように、客観的、合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は解雇権の濫用という思想に立っていると認めざるをえません。ILOにはタイも加盟し、ILO条約158号「使用者の発意による雇用の終了に関する条約」は日本もタイも批准はしていませんが、日本は、すでに労働契約法で、この条約の精神を生かし、タイは明文の規定はないものの、労働法の全体を見渡すと、ILO条約158号の精神は生かされていると見るのが順当と思われます。

以上

FAQ:労働組合がない場合の要求書の成立要件

A:1975年労働関係法では、労働組合が要求書を出す場合は全労働者の5分の1以上が組合に加入していることという条件があります(法15条1項)。労働組合がない場合、または労組があっても全従業員の5分の1に満たない場合は、以下の手続きを要します。

1)要求書に関係する労働者の15%以上の署名が要求書になければなりません(法13条3項)。ここで要求書に関係するということは、例えば事務所内の職員が事務所内の労働環境について要求書を出すのであれば、事務所内の全職員が関係する労働者となります。会社内全員の賃上げを要求するのであれば全従業員の15%以上の署名を集めて要求書につける必要があります。

2)次に要求書には交渉のために7名以内の代表を通知しなければなりませんが、代表は関係労働者で選出する必要があります(法13条3項)。この選出の方法は内務省令1号(1975年5月23日付)があり、関係労働者の集会において誰を代表とするかを合意するか、合意できない場合、希望者がない場合は選挙を行わなければなりません。この選挙は労働調停官に行ってもらうことも可能です。

以上が要求書の成立要件です。この条件を満たさないと要求書は成立しません。

従いまして、まず、要求書が出たら、関係労働者の15%以上の署名が自社の労働者のものか、外部の人間のものがまぎれてあいか至急調べる必要があります。要求書を受理したら、その時点から3日以内に交渉を開始しなければなりませんので(法16条)、社員名簿と突き合わせは至急行う必要があるのです。関係従業員が少なければ問題ありませんが、多い場合は作業が大変です。予てから労働者名簿は整理しておいて直ぐにチェックできるようにしておかないと、チェックしないまま要求書を正式に受理するということになり、それこそ一部の跳ね上りの思うつぼになりかねません。

また、選挙のための集会を時間中に社内で行うのは、多分就業規則で勝手に執務を中断して集会を開くのは禁じてあるはずですから規則違反となることに注意しなければなりません。最近は労働運動の意識が向上していますので、こういうことは少なくなりましたが、もしそういうことが起きれば、規則違反として解雇もありえます。最高裁判例4047-4053/2546(2003年)では、執務時間中に社外で集会を行ったのは、意図的に使用者に損害を与えたとして首謀者7名を解雇したのは妥当としています

FAQ解雇通告書には必ず理由を特定すること

A:労働者が解雇補償金を貰って無事辞めたからといって必ずしも安心できません。何事もなく辞めたからほっとしたら、不当解雇として労働裁判所に提訴するケースはあるのであります。

特に注意しなければならないのは、勤務成績が悪い、就業規則違反により解雇する場合であります。物事を穏便に済まそうと、勤務成績や違反の事実は書かないで解雇通告書を出した場合、労働者保護法17条3項では「使用者側から雇用契約終了の通告をする場合、雇用終了通告書に理由を記載していないとき、後になって119条の理由を挙げることはできない」と定めています。

119条には労働者側に違反行為などがある場合解雇補償金を払わないで解雇できる理由を6項目挙げています。

仮に解雇された労働者が不当解雇として労働裁判所に訴えた場合、実は労働者側にこういう違反行為があったからで不当解雇ではないという申立はできなくなってしまいます。

解雇補償金を貰っておきながら、訴えるとはひどいではないかと言っても、提訴されたら、不当であるかないかは裁判官が両者の言い分を聞いて判断することになります。裁判官が不当であると判断したら、労働裁判所設置・訴訟法49条により職場復帰か、裁判官が決定する損害賠償金を払って分かれることになります。

労働者委員会とは何か、その役割は

A:労働者委員会の役割は日本でかなり普及している「労使協議会」または「経営協議会」のようなものと理解していただければいいかと思います。本来、日本では「労使協議会」に関する法律はなく、労使の自由な話し合いで結成され、労働条件のみならず、経営、生産、人事、福利厚生など幅広く話し合うことによりお互いに協力関係を築くという役割を担っているのであります。欧州では古くから労働者の経営参加が提唱され、日本にも導入されてきたものです。 タイでは、労使の自由な協定に任せず、一定の枠を労働関係法での規定したところが日本と異なるところです。また、従業員50人以上の事業所で設置できると自由な設置にし、労働組合のような法人格も必要ではありません。 その役割は労働関係法50条で、使用者が最低3ヶ月に1回委員会を開催し、以下のことを協議することが定められています。 (1)労働者の福利厚生 (2)労使双方にとり有益である服務規程を定めること (3)労働者の苦情の検討 (4)事業所における協調、紛争の解決方法の協議 これで見ますと(2)と(4)は元来、労働条件協約(タイの場合、労使間の協定は日本の労働組合法でいう労働協約、その他の労使協定と法的に異なるので労働条件協約と日本語で称している)で定めるべき筋合いのもので、労働組合の活動とダブっていますが、敵対的関係にある労働運動ではなく労使協調路線で話し合うということが労働条件協約とは異なると理解できます。また、議題に、日本では一般的である経営にかかわる問題が含まれていないのは、労働者から経営権にかかわる問題に口を出して貰いたくないという使用者側の意見が立法過程で作用したのではないかと推測されます。 しかし、51条では、「労働者委員会が正当な理由なく使用者の業務秘密を漏洩した場合、使用者は労働裁判所に対し当該委員の解任、労働者委員会の解散を求めて提訴する権利を有する」と定めているのは、矢張り、経営にも関与することを法が期待しているのか、前述の(1)から(4)までの議題に経営問題を省くとき、同時にこの51条も省くのを失念したか、または(1)から(4)までの議題においても企業秘密に接することができると判断したのか、51条の主旨はよく分からないのであります。ただ、使用者にとっては有利な規定でありましょう。 52条で、「裁判所の許可なき限り、解雇、減給、懲戒、委員の活動妨害および結果的に委員が働くことができないような行為を使用者が行うことを禁ずる」と使用者側には厳しい規定となっています。これは45条で「全労働者の半数を超える労働者が組合員であるとき、労働組合は労働者委員会の全ての委員を任命することができる」という条項と呼応したものと思われます。つまり、法では労働組合が要求書提出などの活動を行っているときに解雇するのは不当労働行為であるという121条の規定と関連し、労働者委員会委員も法的に保護しょうという主旨と思われます。 また、53条で会社側が委員に対して金銭的援助を与えることを禁止しているのも、日本の労働組合法2条の趣旨と同様で、労働組合と同じく労働者委員会委員も使用者の支配を受けて御用委員とならず、使用者とは一線を画して活動させようという主旨でありましょう。 以上、法をつぶさに検討してみると労働組合との差が判然としませんが、法は法でありますので、要は労使協調路線で労働環境を整えることを期待した規定ということができましょう。 (おわり)

「会社からの借金を給与から天引きできる限度」 「会社からの借金を給与から天引きできる限度」

A:労働者保護法を見てみましょう。法76条では例外を除き賃金、時間外手当、休日勤務手当、休日時間外手当から天引きしてはならないと規定しています。つまり、給与は全額支給が原則であります。

それでは例外は何かでありますが、76条では次の5項目について例外を設けています。 (1)個人所得税の源泉徴収、その他の法に基づくもの(社会保険など) (2)労働組合費 (3)貯蓄組合、同様の協同組合、厚生資金などへの納付金 (4)法で認められた保証金(経理担当者など)。また、故意、重大な過失により生じた使用者に対する損害賠償金 (5)プロビデントファンドの拠出金

以上のうち(3)と(4)については労働者の同意が必要であります。また、(2)、(3)、(4)、(5)についてはそれぞれ労働者が受けとる権利のある金額の10%を超えてはならず、かつ、合計で20%を超えてはならない、ただし、労働者の同意を得た場合を除くと規定されています。

ここで、労働者の同意とは77条で文書により労働者の署名を得なければならないと定められています。

以上の賃金、手当て等の20%を超えてはならないという原則は、給与から余り多額に天引きすれば労働者の生活に大きく影響するという配慮でありましょう。

そうすると、自ずから貸付の限度額は決まってきます。また、労働者が借金の返済が済まないうちに辞職、解雇されたときどうするかも考えておかねばなりません。そのことを充分考慮した上で共済組合、厚生資金などの規則を作成し、貸付額に一定の歯止めをかけておかねばならないことになります。

また、返済について労働者から文書に署名した同意書を取り付けておくことが必要となります。

なお、判例では、解雇補償金、事前通告に代わる補償金、解雇のとき支払わなければならない(労働者に非違行為がなく解雇するとき)取得しなかった年次有給休暇の賃金から天引きする合意は合法としています(最高裁判決5779/2541ゲーソムサン・ウイラワン著「労働法解説」2005年より)。

以上

タイにおける解雇事前通告の方法について

A:タイは日本とは異なります。 タイの1998年労働者保護法17条2項で、期間の定めのない雇用契約は、給与日かその前(3ヶ月未満の期間内であればいい)に次の給与日に雇用契約を終了することを通告することが求められていますので、就業規則もそれに合せて下さい。日本の場合は無条件で1ヶ月前ですが、タイは上記の通りです。つまり、通告日と終了日の間に2回給与日があることになります。雇用契約終了が解雇であれば、その間に次の職を探す準備をすることができるという配慮でしょう。 ただし、次の給与日ということは給与が月1回であれば1ヶ月前の通告となりますが、2回払いですと、15日前の事前通告となることに注意して下さい。また、次の給与日に労働者に支払わなければならない額の賃金を支払うことにより即時雇用契約を解除(解雇)することができます。 また、この事前通告の方法に関する規定は使用者だけではなく労働者側から雇用契約終了を申し出る場合にも適用される規定となっています。ただし現実として、労働者側がこの規定を守ることは余りありません。 就業規則には労働者は1ヶ月前に退職願いを出すことと決めてあるのが多いです。 この回答に関係なく、労働者を解雇するには様々な条件がありますので労働法全部を理解するころが求められることにご注意下さい。労働者の解雇は日本と同様困難であることを申し添えます。 (おわり)

タイにおける機械の導入による合理化(人員整理)

A:1998年労働者保護法121条では、機械の導入を含む合理化により人員を減らす場合は、最低60日以上前に、労働監督官と解雇される本人へ事前通告をしなければならないと定めています。両者に通告ということにご注意下さい。そして60日より短い期間で通告した場合、解雇補償金に加えて60日分の特別解雇補償金を支払わなければなりません。 それでは、事前通告をして解雇補償金を支払えばそれで済むかと申しますと、過去の例では済まないで不当解雇として労働裁判所に提訴されたケースがありますので、安心はできません。とくにホアマンクラス以上から提訴される可能性はあります。労働者が不当に解雇されたと感ずれば裁判所に訴える権利はあるのですから誰も止められません。 これは日本では整理解雇と称され、バブル崩壊で整理解雇が盛んに行われましたが、提訴されるのを避けるため退職金を割増して希望退職を募ることが一般的に行われました。日本では整理解雇には最高裁判例では次の四つの条件が必要とされています。 1)解雇回避努力をしたか 2)解雇人選が合理的であるか 3)労働者、組合と協議を尽くしたか 4)経営状態が整理解雇を必要とするか この4条件が揃わないと日本では不当解雇とされます。 タイにはこういう場合の4条件という明確なものはありませんが、裁判所が判断する規準としては日本と同じようなことを考えると思ったほうが順当と考えられます。現に筆者が知っている例では、裁判官はこの4条件のうち人選に関する質問を経営者に投げかけ、人選の合理性を突いてきました。会社側は人事評価のデータを証拠として提出したのですが、日系企業の常として客観的に合理的な人事評価とは程遠いものであったため、結果として会社側が敗訴して、損害賠償金を払う羽目になりました。 このことから、解雇する人選にはよほど注意して客観的にうなずける勤務評定を準備しておくことが肝要と考えます。

「就業規則は労使間の協定とみなされる場合がある」

A: 労働関係法10条1項において「20人以上の従業員を有する事業所は労働条件協定を持つようにしなければならない」と定め、3項において「労働条件協定を有するか疑問がある場合、就業規則を労働条件協定とみなす」と定めています。

これは一体何を意味するのでしょう。

労働条件協定は、労働関係法12条以下にあるように、労使の交渉によってできる労使の合意事項であります。

そうなると、従業員20人以上の事業所においては、従業員の同意なしには就業規則を変更できないということになります。使用者が変更しようと望むなら、労働関係法13条以下に規定されている労使交渉の手順を踏まなければならないことになります。

それでは、会社が操業当時は一方的に就業規則を作成しても、従業員が20人を越えたら一方的に変更はできないのであれば、企業の人事権、または経営権は制限されるのかと問われれば、タイの法律を読む限り、制限されていると答えざるを得ません。

参考のために日本の場合を見ますと、労働基準法90条において「使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合において労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない」と定めています。もっとも聴かなければならないが、反対があっても他の要件を具備する限り就業規則の効力には影響がないという行政判断があります。また、それを支持する判例もあります。

「時間外労働は原則労働者の事前承諾を要する」

A: タイでは、超過勤務手当てが欲しいので、労働者側から時間外労働を要求されることがありますが、労働者側の要求にそのまま従っていいのかどうか、この際時間外労働の原則について検討しておきましょう。 先ず、時間外労働の定義ですが、労働者保護法(以下法)5条において「時間外労働とは通常労働時間外の労働」と定義されています。それでは「通常労働時間」とは何かでありますが、法23条1項において「使用者は1日の始業、終業の時刻を定めて通常労働時間を公示しなければならない」とあり、使用者が定める時間であります。ただし、同条で1日8時間、1週48時間を超えてはならないとあります(健康に有害な業務は1日7時間、1週42時間)。また、仕事の性質により始業、終業の時間が特定できない場合は労使合意で定めることもできます。 従って、使用者が8時始業、1時間休憩、17時終業と定めておれば、通常労働時間は8時間であり、17時以降の労働は時間外労働となります。また、8時始業、1時間休憩、16時終業と定めておれば、通常労働時間は7時間でありますが、16時以降の労働は上記の定義により矢張り時間外労働となることに注意しなければなりません。 次に、必要な場合、いつでも時間外労働を命ずることができるかでありますが、法24条1項、25条3項では、「事前に、その都度労働者から承諾を得ない限り、労働日に時間外労働、休日労働をさせてはならない」と規定されています。 これに違反した場合、法144条により6ヶ月以下の懲役もしくは10万バーツ以下の罰金、または併科です。 この主旨は労働者の健康、生活を守るためには原則禁止と理解すべきでしょう。例外として「事前にその都度」承諾を得た場合は可能としています。(31条では健康、身体に有害、危険な業務は時間外、休日労働を禁止) 日本の労働基準法でも、32条において週40時間、1日8時間を超えて労働させてはならないと原則禁止であります。ただし、36条において、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者との書面による協定をして、時間外労働(休日労働も)をさせることができるという例外規定を設けています。これを労働用語では「三六(サブロク)協定」と呼んでいます。36条に関することだからですね。 タイと日本では規定は異なりますが、時間外労働は労働者の事前承諾が必要であることは同様ですね。タイの場合は「事前にその都度の承諾」であり、日本の場合は三六協定有効期間中は可能となるのであります。

「従業員の故意過失により第三者に損害を与えた場合の使用者の責任」 「従業員の故意過失により第三者に損害を与えた場合の使用者の責任」

A:自社の運転手が事故を起こして他人に損害を与える場合とは、死亡事故も含みますが、 使用者には、どういう責任がかかるかは考えておかねばなりません。

民商法典425条では、「従業員が、執務中に起こした不法行為(故意または過失による)について使用者は連帯して責任を負う」と規定されています。

運転手が会社の荷物、または従業員を運送しているとき事故を起こし、第三者が死亡した場合を例にとりますと、運転手も損害賠償の責任がありますが、使用者(会社)にも責任があるということです。ただし、運転手に損害を全部賠償する資力はないのが普通ですので、使用者が賠償することになります。

民商法典426条では、こういう場合、使用者は事故を起こした運転手に求償することができますが、事実上無理でしょう。

日本の民法では、上記の425条と同様の規定がありますが、連帯ではなく、使用者が責任を負うことになっていますが、従業員に対する求償権はあります。また、但し書きに、「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは」使用者に責任はないと規定されています。

タイの民商法典には、この但し書きがありませんので、使用者は無条件に連帯して責任を負うことになると解されます。連帯して責任を負うとは、被害者は従業員でなく使用者に賠償請求してもよいと解されています。日本の連帯責任と同じですね。

注意しなければならないのは、前日夜遅くまで運転手を使って、翌朝100k以上もある会社まで、スピードを出して同じ運転手の運転により出勤するようなときですね。運転手が居眠り運転をして事故を起こせば、使用者にも重大な過失があると裁判では判断されるでしょう。また、自分の身の安全にかかることでもあります。

もし、ゴルフなど私用で社用車を使っていた場合、他人を死亡させ、自賠償以上の損害賠償を要求され、会社が賠償金を負担してくれるかどうかも考えておかなければなりません。

労働者保護法に基づく省令12号における、運転手には終業から始業までに10時間以上の間を開けなければないないという規定も忘れてはならないのであります。この規定は運送業者の運転手に対する規定のようにも見えますが、どうであれ、自分の身の安全のためにも、運転手が過労とならないように気をつけましょう。

妊娠している労働者の扱い

A:労働者保護法では以下の保護規定を設けています。従って女性が妊娠したら速やかに会社へ報告するよう就業規定でも定めておくことが大事です。 1.禁止される労働(39条) (1)振動する機械またはエンジンに関する作業 (2)車両の運転または関連作業 (3)15キロを超える重量物の持ち上げ、肉体による運搬、牽引作業 (4)船内作業 (5)その他省令で定める作業(労働専門弁護士または労働事務所で確認のこと)

2.労働時間 まず、39条/1条において22時から6時までの労働、時間外、休日に働かせてはならないと定めている。たとえ、時間外労働手当てが欲しいため残業したいと本人が希望しても、時間外労働をさせたら違反となります。 また、2直、3直制を採用している企業でも、22時から6時までの労働に就かせることはできません。 時間外労働については、例外があり、法に基づく省令第7号の5条において、妊娠した労働者が、経営者の地位の業務、専門業務、事務(会計を含む)に就いている場合は、本人の承諾を得て健康に差支えのない範囲で労働日に時間外労働をさせることができると定められています。

3.休暇 次に産前産後の休暇ですが、41条において、1回の妊娠について98日(以前は90日であったが2019年に改正された)の範囲内で休暇を取る権利があり(妊娠検診のための休暇を含む)、そのうち59条により45日は有給であります。 また、32条3項において、出産休暇は病気休暇とはみなさないと規定されているので、病気休暇は57条により別途年間30日まで有給であることに注意して下さい。

4.業務変更 42条により、今までの労働が妊娠により難しいことが1級現代医師により証明されたときは、労働者は配置転換を要求する権利があります。

5.解雇 43条により、妊娠を理由として解雇することはできません。これに違反すれば144条により6か月いかの懲役、もしくは10万バーツ以下の罰金、または併科ですから注をようします。