タイの工業団地のあらまし

タイの工業団地のあらまし

更新月日:2020年10月7日 元田時男

 

1. タイ国工業団地公社IEATの目的と役割(独自または民間との合弁による工業団地の造成、管理)

タイ国工業団地公社(Industrial Estate Authority of Thailand-以下IEATと略称する)は、タイ国政府工業省に属する国営企業である。1979年タイ国工業団地公社法(以下法と略称する)により、その目的を要約すれば以下の通りである。

  1. 工業団地を造成すると共に、インフラストラクチュアーを整備すること
  2. 工業団地の管理、運営
  3. 民間部門と共同して上記(1)、(2)の事業を行うこと

IEATの工業団地には、IEATが自ら造成、販売(一部リース)、管理運営するものと、民間会社が造成、販売して、管理運営だけをIEATが行うものの二つに分かれる。IEATのウェブサイトによれば(2020年10月6日アクセス)国内に全部で55団地があり、そのうち前者が13団地、後者が42団地と、民間会社(デペロッパー)との共同経営が断然多い。いずれの場合も団地の名称の後に英語の場合Industrial Estateという言葉が付く。また、法40条により、IEATが管理する団地以外の団地がIndustrial Estateという名称を使用することは禁じられているので、民間企業が造成、販売し、管理運営する団地は、名称の最後はIndustrial Zone,またはIndustrial Parkなどの名称を使用しているので、名称によりIEATが管理している団地かどうかが分かるのである。

民間のIndustrial Zone等も、サービス、公共事業の分類でBOIの奨励業種になっており、団地内の設備などもIEATのIndustrial Estateと同様の内容が要求され、認可されているので、内容に遜色はない。

ただし、Industrial Estate(工業団地)の場合は、後述するように土地の所有、建築、工場設立、専門家等の外国人労働許可等の様々の法による特典がIEATにより受けられるので、1か所で申請許可が受けられるのである。

IEATが管理、運営する団地は一般工業区(General Industrial Zone- GIZ)と自由事業区(Free Zone)に分かれている。自由事業区は、以前は輸出加工区(Export Processing Zone-EPZ)と称されていたが、2007年12月の法律改正により名称が変更され、輸出関係のみならず商業、その他のサービス業が入居できるようになった。自由事業区は保税地区で、ここに搬入される原材料などは全て輸入税および輸入時にかかる付加価値税および物品税その他が免税となる。 

2.IEATの工業団地への入居資格と入居申請(入居には入居申請が必要)

BOIのように奨励対象業種というものはない。タイの工業、技術、産業発展に役立つもので、団地の環境維持を阻害するものでなければ、IEATの入居が認められる。従って、審査のため団地の土地使用申請を行う必要がある。

また、工業は,法により、製造、組立て、混合、包装と定義されている。また、団地内の倉庫、商店などサービス部門も団地運営に不可欠のものとして入居が許可される。

入居を申請するには、BOI同様申請書を提出するが、申請書は、BOIと異なり、団地の運営にどのような影響を与えるかが中心となっているので、使用電力、上水、電話、排水、原材料、環境保護などに関する情報が主となっている。

また、工業に関する環境行政を担っている工業省の傘下にあり、工業設立許可の権限を持っているので、工場法、環境保護法で要求される環境対策についても審査される。

許可が下りたあと、IEATと入居者との間で「土地使用契約書」を締結することになっている。契約は入居者である法人と締結されるので、契約までに現地法人を設立することは、BOIの奨励証書と同様である。ただし、契約書は工業団地運営上の規則を守ることが主な内容になっている。

IEATの工業団地の多くは、民間が造成、販売してIEATが管理、運営するので、その場合、造成、販売企業との土地販売契約を行ったあと、IEATの土地使用申請、土地使用契約という順序になる。IEATが管理、運営しない工業団地(Industrial Parkなど)では、土地売買契約と平行して、BOIへの投資奨励申請を行い、BOIの投資奨励法の特典により、土地所有権取得、外国人就労許可等を取得し、工場設立許可は工業省、建築許可は地方自治体で行うことになる。

3.IEATの特典とBOIの特典

IEATの主な特典をまとめると以下の通りである。IEATは法人所得税の免税権がなく、輸出製品用原材料の輸入税の免税の特典がないので(IEATの場合、自由事業区―Free Zoneに入居すれば輸入税は免税となる)、普通はBOIとIEATの両方のライセンスを取得することになる。

  1. 外国人出資比率が49%超でも土地所有が可能(BOIの場合も同様)
  2. 外国人労働許可取得が容易(BOIの場合と同様)
  3. 自由事業区では機械、原材料等の輸入時にかけられる関税その他の租税が免 除される。自由事業区が輸出加工区として発足した当初は100%輸出が義務付けられていたが、現在は、輸出義務はなく、自由事業区から国内へ移入するときに、移入する品目に課せられる輸入税、物品税(あれば)、付加価値税などを納付しなければならない。
  4. 建築基準法に基づく建築許可(法によりIEATに権限が委譲されている)
  5. 工場法に基づく工場設立許可、操業許可(同上)
  6. 都市計画法に基づく許可(同上)

以上の手続き、許可は、それぞれの法律に従って、IEATの委員会の規則にも従い、IEATの総裁、または権限を委譲された担当官が行うので、工業団地内のIEAT事務所、またはIEAT本部で行うことができるようになっており、これをOne-Stop Service Center と称している。

4.IEATの自由事業区(Free Zone)

IEATが管理する工業団地には自由事業区(旧輸出加工区)が設置されている団地があり、これはIEAT法により、従来は工業並びに輸出に関連する事業の入居が可能であったが、2007年に同法が改正されたとき、入居資格は工業ならびに商業、サービス業、関連事業と範囲が広くなった。

租税上の取扱いは従来の輸出加工区(EPZ)と同様で、国外からFree Zoneへ輸入される、または国内から移入される物品にかかる租税(輸入税、付加価値税、物品税など)は全て免税である。また、自由事業区から国内に移入されるときは、その物品にその時点における物品の形態による輸入税、付加価値税、物品税等が課せられることになっている。

現在のFree Zoneの前身である輸出加工区では、区内で製造されたものは100%輸出が義務付けられていたが、その後輸出義務は緩和され、現在では100%輸出義務がなくなった。ただし、タイ国内に移出される場合は、その物品にかかる輸入税、付加価値税(Vat),物品税等の租税を納税する義務がある。

(おわり)