タイにおける会計制度の概要

タイにおける会計制度の概要

(2020年8月11日:元田時男)

1.会計の重要性と対策

特に中小企業の場合、タイへ派遣される現地企業の責任者は技術者が多いが、技術のみならず、総務、会計、労務など慣れない仕事もこなさなければならない。従って、派遣員の事前研修では財務諸表が読めるように訓練することが重要であると同時に、タイの会計事務所などと連絡を密にしておくことが重要である。

それから重要なことは、日系企業で最も多い非公開株式会社(民商法典会社編で規定されている)を例にとると、民商法典1196条、1198条により12か月に1回年度末に決算書を作成、4か月以内に会計監査人の監査を受けて株主総会の了承を得たあと1か月以内に、商務省へ提出しなければならない(会計法11条)。決算書は2000年会計法11条4項により公認会計士の監査および意見を受けなければならない。また、会計監査人(公認会計士)は会社の使用人等利害関係者であってはならない。つまり外部監査である。

また、日系企業のほとんどは非公開株式会社であるが、会計監査は日本と異なり、全て前述の通り公認会計士が行うことが定められているが、会社の数に対して公認会計士が足りないという問題がある。

従って、会社発足の前から監査を依頼する会計事務所を定めて、創立総会で会計監査人を選任する公認会計士を定めて、報酬も含めて創立総会で選任できるようにすることが肝要である。

2.会計に関する法令

前述の通り民商法典の会社編1196条から1207条までが非公開株式会社の会計に関する規定である。そこでは決算書の作成が義務付けられている。

公認会計士については、2004年会計職法により会計職連盟(Federation of Accounting Profession))が設けられており、前述の2004年会計職法39条(2)に基づき会計職連盟の試験を通過し、訓練を受けなければならない。そのほか会計担当者の監督、訓練、職業倫理の向上、会計基準の策定、公布を行っている。

会計全般については、1972年革命団布告285(一般に会計法と呼ばれていた)を全面的に改正して、2000年会計法が制定されている。これは会計に関する最も基本的な法律となっている。また、会計の責任を全般的に持つ「会計責任者」と実際に記帳を行う「会計担当者」に分け、特に「会計担当者」については。2014年会計担当者の資格、条件に関する商務省事業発展局(Department of Business Development)の告示がある。この告示と会計法により要点をまとめてみるとつぎの通りである。

(1)会計行政は商務省事業発展局が担当。

(2)備えるべき帳簿を規定

(3)従来の会計責任者に加え会計担当者の規定ができ、「2014年会計担当者の資格、条件に関する商務省事業発展局告示」により、以下のように資格が定められている。この告示は当初2000年に公布されたものであるが、何回も改正され、最終的に2014年の告示に代えられたものである。

1)タイ国内に居住していること。

2)タイ語の能力を有すること。

3)会計法による禁固刑の最終判決を受けたことがないこと。ただし、受圭後3年以上経過した場合を除く。

4)以下の資格を有すること。

①登録資本金が5百万バーツ以下で総資産かつ総収益が3千万バーツ以下の場合は職業短大(PWS、注普通高校または職業高校を卒業したあと、専門学校において2年間職業教育を受ける。卒業後大学3年生に入学して学士をとることも可能)以上で会計に関する学科を終了していること。

②以下の場合、会計学で学士以上、またはタイ国会計職連盟が認める会計学士以上の学歴があること。

(イ)登録資本金、資産、もしくは総収益が①を超えている登記済みパートナーシップ、および非公開株式会社。

(ロ)タイの法律で設立された公開株式会社(1992年公開株式会社法による)。

(ハ)外国法で設立されタイで事業を行う法人。

(ニ)国税法典に基づく共同事業体

5)その他の資格(要点のみ、詳細は告示和訳参照)

①タイ国会計職連盟の会員であるか、登録すること。

②会計業務に関する詳細を、会計業務開始から30日以内に事業発展局へ電磁的方法により報告すること。

③その他、知識増進のための活動に暦年で12時間以上従事することなど。

3.タイの会計基準

タイの会計基準は2,004年会計職法の第4章に基づきFederation of Accounting Professionsの会計基準策定委員会で策定し、官報で公布したとき施行されるが、これには2種類ある。一つはTFRS(Thai Financial Reporting Standard) for PAEs(Publicly Accountable Entities)で公開株式会社のように公に会社の内容を開示しなければならない企業のためのもので、IFRSに準じてTFRSと呼ばれているものである。もう一つは、TFRS for NPAEs (Non Publicly Accountable Entities) と呼ばれるもので、非公開株式会社のように公に会社の内容を開示しなくてもいい非公開株式会社用の基準で、前述のPAESよりも簡素化されているもので、日系企業はほとんど非公開であるから、この基準で会計処理すればいいのである。ただし、PAESを使用しても構わないのである。

いずれの基準もFederation of Accounting Professions で入手するか、官報でも公布されている。会計基準は法律でタイ語を使用することになっているので、公表されているものもタイ語である。会計事務所等とよく相談すること。

4.会計事務所の規制について

会計業務を代行、法に基づく会計監査を請負う会計事務所については、粉飾決算等の問題がなく、会計職業上の倫理を順守させるため、「2015年事業発展局告示:会計事務所の品質認証にかかる基準および条件」(注:2014年の告示を廃止して)が公布されており、事務所長は常勤で会計学士以上の学歴が必要、5年以上の会計業務の経験があることなどの資格が必要とされている。

また、品質の認定機関として、以下が指定されている。

(1)ISO規格認定機関

(2)事業発展局が同意するその他の機関