タイの「事業担保法」立法の経緯と、法の要点

タイの「事業担保法」立法の経緯と、法の要点

2021年8月2日:元田時男

1.はじめに

経済関係が複雑になってくるにつれ、人と人の関係を律する基本法である民法も次第に時代に合わなくなってくる。タイは日本の民法を参考にして、「民商法典」を制定しているが、日本と同様実体経済との乖離がみられる。

日本の民法の場合は、戦後、家族法などを中心に民主化を進めるために改正が行われたが、特に経済ビジネスに関する部分は法がカバーできない部分は、新しいビジネス慣行を裁判所が認めるという判例法理を活用して経済ビジネスの実態に合わせることが行われてきた。ただし、成文法の日本では、先が見通せないなどの不便さがあり、民法を全般的に変えようという要請が各本面から出てきて、基本法であるところから、他の法律との整合性を分析するなど、法務省、経済産業省、民間関係者が中心になって、法改正と準備が進められ、2017年に新民法が成立し、2020年の4月1日に施行されたのである。

タイの場合も、特に1980年代からの主として日本からの輸出志向型工場の参入に伴う経済発展により、法の近代化の要請も高まってきた。特に1997年に起きたタイの通貨危機は、タイバーツの暴落を招き、グローバル化が進んできたタイの経済ルールに大きなインパクトを与え、ドルで借り入れた負債が倍近くに膨れ上がり、多くの企業が経営破綻に陥った。そこで、破産法を改正し、アメリカの破産法チャプターイレブン、日本の会社更生法のように、破綻企業の再生の道をつけた。その他会計についても会計法の制定を行い会計制度の刷新を行った。ほかにも、特に中小企業のための施策が実施されている。

2.タイにおける事業担保法制定の経緯と目的

 以上のような経緯で、法を経済活動実態に合わせることが通貨危機を契機に、資金調達の多角化が問題になってきたのである。従来の方法であると、民商法典では不動産に抵当権を設定する方法と、動産には質権を設定する方法が用意されていたが、質権は担保物を債権者に手渡さなければならないので、資金調達の方法としては土地など不動産に抵当権を設定するのが一般的であった。ほかに「機械登録法」により、動産である機械に抵当権を設定し、質権のように債権者に機械を引き渡すことなく担保にする方法もあるほか、ファクタリングによる債権を担保にする方法も行われているが、それも限度があり、経済活動の活発化による資金調達方法の多角化が望まれていた。

 そこで、新たな方法として事業体が所有する動産、売掛債権などを担保として、事業で使用しながら資金調達することを可能とする法律の制定が望まれ、特に不動産を有しない中小企業の資金調達を支援することが期待される法として、2015年に「2015年事業担保法」(Business Security Act)が制定され、官報公布の日(2015年11月5日)から221日を経過した日から施行されている。ただし、言葉の定義、所管官庁など準備を要する条項は公布の日から施行されている。ただし、担保となる売掛金、棚卸資産などの動産は、資金の借り手の手元にあり、その評価、量も、価格も変動するので、それをどう管理するかの問題に対処しなければならないので不動産の抵当とは異なる対応を盛り込んだ法律となっている。

3.担当官庁、担保とする動産の種類

(1)担当官庁

タイの場合は本法1本で全てをカバーしており、商務省の所管とされており、事業発展局{Department of Business Development(DBD)}が、事務局となり、後述の資金調達契約書の登記もここで「事業担保登記官」により行われている。

(2)担保物件

以下の資産(動産)が第8条により定められているが、担保権設定者(融資を受ける者)は、担保物件を質権のように担保権者(融資者)に引渡す必要はなく、手元に置いて事業遂行の用に使用することができる。担保物件は、担保権設定者の手元で使用されているのであるから、例えば棚卸資産などは、絶えず増減しているため、担保価値も絶えず動いているのである。従って、本法もそれに対応して制定されている。

1)事業
 事業体が事業を営むために使用している動産全体
2)債権
 売掛金など。
3)事業体が事業を営むために使用している動産で、機械、棚卸商品、製造用原材料など。
4)不動産業の場合は不動産。
5)知的財産権
6)省令で定めるその他の資産

4. 融資者(金融機関等)、契約、担保管理者、登記、

(1) 融資者
 動産を担保として融資者する者(担保権者)は、法で金融関係機関等に限られている。

(2) 融資契約、担保管理者
 担保権設定者(融資を受ける者)と、金融関係機関等が担保権者として融資契約を締結するが、事業を担保とする場合、両契約当事者は、「担保管理者」を指名しなければならない。「担保管理者」は、法律、会計、経営管理、資産評価の学識経験者で、事業発展局の「事業担保登記官」の認可を受けなければならない。

(3) 契約書の内容
 担当部局の事業発展局内には、事業担保登記の事務局が設けられており、登記、登記内容の変更、終了の事務を行うほか、一般大衆の供覧に付されている。登記には以下の内容が求められている(第18条)。
 登記の年月日、時間のほか、担保権設定者、担保権者、担保管理者の住所氏名、借入金額、担保物件の明細、担保物件の最高担保価値など。

5.その他重要事項

 前述の通り、担保物件によっては、絶えず量的にも、価値的にも変動するのであるから、担保権者が執行するとき、債権額が登記額を上回らないように、関係者が絶えず登記内容を監視、変更登記を行わなければならない。それは複雑な法的義務を伴うので、ここでは、以上の基本的なことだけ紹介するので、実行に当たっては、弁護士、担保権者となる金融関係機関、担保管理者等とよく打ち合わせて欲しい。

(おわり)