タイの労働者保護法のあらまし
2021年12月20日 元田時男
更新日 2025年12月19日 川島和士
1. 労働行政の歩み
タイ国にも1946年来労働法はあったが、労働者を本格的に保護するには、1972年の「労働者保護に関する内務省令」を待たなければならなかった。1993年には労働省が創立され、労働行政は内務省労働局から労働省に移された。その後、1998年に前述の内務省令に変わるものとして「1998年労働者保護法(以下、条文参照において本法)」が制定された。
日本でいう労働三法は、タイの場合、日本の「労働基準法」がタイの「1998年労働者保護法」に該当、「労働関係調整法」と「労働組合法」がタイの「1975年労働関係法」に相当する。
なお労働者保護法のタイ語の名称は(พ.ร.บ.คุ้มครองแรงงาน พ.ศ. 2541)であり、1998年に制定されて以来、2008年(2回)、2010年、2017年(2回)、2019年、2023年、2025年に改正されている。
2. 労働法と判例
労働者保護法は保護のための最低の条件を定めているのであるから、個々の事例については法に定めがないものもある。その場合、労働省がどう考えるかも重要であるが、法の最終的解釈は最高裁判所の役割であるから、判例を頼りにしなければならない。従って法律的に疑問があれば、労働判例に通じた専門の弁護士を使うことが肝要である。
また、「1979年労働裁判所設置、訴訟法」第51条の第2項で、労働裁判所は最高裁の判決文、命令の写しを速やかに労働省へ送付することという規定があるので、労働省は判決文に目を通す機会はあるのであるから、判例に沿った行政判断は可能となっている。
なお、別途詳述するが労働問題、税務、知的財産など特別な専門知識を要する事件の裁判所は、従来裁判に専門家を参審裁判官として配置し、上訴は第2審の控訴裁判所は飛ばして最高裁に上訴していたが、控訴裁判所に「2015年特別専門控訴裁判所設置法」による特別専門控訴裁判所が追加され、最高裁ではなく「特別専門控訴裁判所」へ上訴し、この第2審から最高裁へ上訴しても、民事訴訟法も改正され、最高裁は過去に判例がないなど特別の場合以外は上告を受理しないことになっている。従って通常の場合、第2審で終了、従来通り専門性と迅速性が保たれている。
3. 労働者保護の全体にかかる基本的なこと
(1) 同一労働同一賃金
日本でいう派遣労働もあるが、派遣労働に関する(個別の)法律はまだない。しかし正規の労働者と同じ労働をしておれば、賃金、厚生処置なども同一労働であれば、派遣、正規を問わず同一の扱いをしなければならない(本法第11/1条)。本法第53条でも男女を問わず同一労働同一賃金の規定がある。
(2) 男女労働者の平等な扱い
本法第15条で男女平等に扱うことが定められている。
タイには日本の「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律」のような(個別の)法律はないが、タイの社会は伝統的に男女平等の社会であり、女性の社会進出は日本よりずっと進んでいるのである。ただし、体力の差など女性に配慮した規定は本法にも設けてあり、本法第38条から第43条に女性労働者保護の規定が定められている。これは別途詳述する。
(3) 保証金
労働者が過失または故意に企業に損害を与えた場合に備えて、保証金を預かる、または保証人の保証を要求することは本法第10条により、経理、現金出納業務、重要な資産を管理する者以外には保証を要求してはならないと定められている(本法第20条)。また後述するように本法第44条から第52条までは18歳未満の年少労働者の保護規定であるが、第51条では年少労働者に保証金、保証人を要求してはならないと定めている。なお、第10条により保証金等の金額、預かる方法などの詳細は大臣が告示で定めることになっている。
(4) 使用者が変った場合
会社合併などにより使用者が変っても、元の使用者からの待遇を維持することを容認しなければならない(本法第13条)。
(5) 不当な雇用契約に対する裁判所の是正命令
雇用契約が労働者に対して不当に不利な場合、裁判所は公平、適切にするよう命令を出すことができる(本法第14/1条)。
4. 就業規則と雇用契約、労働条件協約
(1) 就業規則
事業を始めるに当たって、労働者を雇用することになるが、使用者と労働者が守るべきルールを決めなければならないが、それを明確にするのが労働法であり、それを職場の事情に合わせて作成するのが「就業規則」である。法では労使間の権利義務を先に明確にしたあと、本法第108条で就業規則について定めているが、ここでは最初に、雇用契約、労働条件協約を含めて述べておきたい。
本法第108条では、労働者が10人以上になった場合、その日から15日以内に使用者は、タイ語の就業規則を作成、その写しを職場に常時掲示しておかなければならないと定めている。そして就業規則には以下の事項を盛り込んでおかなければならない。実は、この第108条は2017年に改正されているのであるが、以前は労働者福祉保護局に提出して法に抵触する部分を修正して貰うように定めれていたのであるが、改正後はその必要はなくなったので、会社の就業規則が合法であるかどうかについては弁護士等に相談する必要がある。違反すれば、重大な場合解雇もありうるので、ここは慎重に考えておかなければならない。
大きな企業では印刷して全労働者に配布している(社員用のウェブ等に掲載している)企業もある。
2) 休日、および休日に関する規則
3) 超過勤務及び休日勤務に関する規則
4) 賃金、時間外賃金、休日賃金に関する規則、支払日、支払場所
5) 休暇に関する規則
6) 規律および罰則
7) 不服申立
8) 解雇、解雇補償金および特別解雇補償金
(2) 不服申立
少なくとも以下の規定を作成する必要がある(本法第109条)
2) 手続き
3) 審査、検討
4) 解決方法
5) 申立人、関係者の保護
(3) 労働条件の明示
日本の労働基準法第15条で雇用契約を締結するときは労働条件を明文化しなければならない規定になっている。タイの労働者保護法には同様の規定はない(口頭の契約も成立可能)が、あとで聞いていないなどのトラブルを避けるためには、重要な事項、他の労働者とは異なる条件が追加されている場合など、事前に明文化して労働者の署名をとっておくのが望ましい。
(4) 就業規則と労働条件協約
就業規則を作成、変更する場合、日本では労働基準法第90条により、労働者の過半数が組合員である労組、または過半数を代表する者の意見を付して労働基準監督署に届け出ることになっており、就業規則は使用者の経営権の行使としての位置づけにあるが、タイの場合は、本法とは別の法律である「1975年労働関係法」で20人以上の労働者がある場合、日本でいう労働協約がない場合は就業規則を労働条件協約「タイの労使間の協定は日本の労働協約、労使協定とは成立の条件が異なるので、ここでは労働条件協約(ข้อตกลงเกี่ยวกับสภาพการจ้าง)という言葉を使用する」とみなすという規定がある。労働条件協約は本来労使が対等の立場に立って協定するものであるから、労働条件協約がない場合、就業規則の変更には労働者の同意が必要となることに注意されたい。
5.労働日、休日、休暇
(1) 労働日と休日
本法第5条の定義により、「労働日とは、労働者が通常働くように定めた日をいう」となっている。
そして休日とは次のように分類されている。
・「祝祭日」(วันหยุดตามประเพณี)
・「年次有給休日」(วันหยุดพักผ่อนประจำปี)
以上は労働者を休ませるよう定められた日となっている。
「休暇」(วันลา)とは「労働者が病気、避妊手術、用事、兵役、研修または技能の開発訓練、または出産のために休む日をいう」と定義されている。
(2) 週休日
本法第28条では、1週間に1日以上の週休日を与える義務がある。週休1日制は工場ではまだ残っている工場もあるが、官庁、銀行、事務所等は週休2日制であり、工場でも隔週で週休2日など、週休2日制の方向に向かっている。
週休日は使用者が就業規則で定めるものであるが、労働者と事前に合意して特定の日を週休日とすることもでき、ホテル、運輸、へき地での業務その他省令で定める業務については週休日をまとめること、繰り延べることを事前に合意することもできる。ただし、連続した4週間以内に与えなければならない。従って、ホテル、運輸等では、第1週から第3週まで週休なし、第4週目に4日以上の週休をとらせることが可能である。
(3) 祝祭日
タイには日本のように「国民の祝日に関する法律」に該当する法律がなく(法律で定められているのは5月1日のメーデーだけ)、通常は中央銀行が銀行向けの告示で定める祝祭日を参考に、使用者が12月に翌年度の祝祭日を定めて労働者に公示するようになっている。その場合、5月1日は必ず含めて13日以上とすることが求められている(本法第29条第1項)。そして、祝祭日と週休日が同一日となったときは日本と同様祝祭日の振替休日をその翌労働日に与えなければならない(本法第29条第3項)。
(4) 年次有給休日
1)労働者の権利としての年次有給休日
満1年間就業した労働者は1年間に最低6労働日の年次有給休暇をとる権利がある(本法第30条第1項)。この条文は解釈(学説)が分かれており、この条文を普通に解釈すると最初の1年間は年次有給休日はなし、次の1年間は最低6労働日の権利がある。企業によっては、最初の1年間も6労働日の年次有給休日を与えている企業もあり、本法第30条第4項では満1年継続して就業していない労働者に対して勤続期間を按分して年次有給休日を定めることができるという規定がある。
年次有給休日は、通常計画的にとることが求められるが、第30条第3項では使用者が事前に定めるか、労使で事前に合意することができると定めている。
また、消化しなかった年次有給休日は繰越すことを事前に労使で合意できると定めている(本法第30条第3項)。
2)年次有給休日の買取り
日本では年次有給休日をとらせないで報酬を払って働かせることを年次有給休暇の買取と称し原則法違反とされている(厚生労働省通達)。これはILO条約132号を援用しているのであるが、その趣旨は労働者の健康を維持するためには年次有給休日が必要という趣旨である。
タイでは、本法第25条において休日(年次有給休暇を含む)に労働させてはならないと定めているが、連続した作業を要する場合、緊急の場合、ホテル、レストランなどは可能と定めている。それに製造業でも適時、事前に労働者の承諾を得て必要な範囲内で休日に労働者を働かせることができると定めている。
そして本法第64条において、週休日、祝祭日、年次有給休日に働かせた場合、休日勤務手当、休日時間外勤務手当を支払うよう定めているのである。その場合の割増手当は通常の労働日の賃金の1倍である(月給制の場合、年次有給休日は有給であるから、追加してもう1倍。日給制の場合は2倍)。
さらに、非違行為がないのに解雇する場合は権利として有する当該年の未消化年次有給休日に対する休日勤務手当を支払う必要がある(本法第67条第1項)。
労働者から雇用契約の終了を要求する場合、または使用者が解雇する場合、解雇が本法第119条で定めれている非違行為によるものか、そうでないかにかかわらず繰越した年次有給休日で未消化の分の休日勤務手当を支払うことを要する(本法第67条第2項)。
(5) 休日が有給である場合、無給である場合
以上の週休日、祝祭日、年次有給休日が労働者保護法で定義する休日であるが、月給制の場合、この3種の休日は有給である。従って、月給を時給に換算する場合、月給額を30で割って、その結果を1日当たりの時間数で割って求める(本法第68条)。
日給制、時給制、出来高制の場合、週休日のみが無給となっている(祝祭日、年次有給休日は有給)。
6.賃金と労働時間、時間外勤務、休日勤務、休日時間外勤務
(1) 労働時間
本法第23条によると「使用者は、省令で定める業種ごとの労働時間を超えない範囲で労働者の1日の始業時刻および終業時刻を定めて、労働者の通常労働時間とし、これを労働者に公示しなければならない」と定められている。つまり始業時刻と終業時刻は使用者が定めるのである。そして1日の労働時間は8時間、1週間の労働時間は48時間を超えてはならない。これを超えた場合は時間外勤務となるのである。
また、通常の労働日の通常の労働時間を超える場合、時間外勤務となる。そして、通常の労働時間とは本法第23条により始業、就業時間を使用者が労働時間8時間以内となるよう定めるのであるから、仮に朝9時から夕方17時までと定めた場合、休憩時間の1時間を除けば7時間労働となる。都合により8時から9時まで1時間働かせた場合、この1時間は8時間の制限時間内であるが、通常の労働時間を1時間超過しているのであるから超過勤務として割増手当を支払う必要がある。このことは日本の「法定労働時間」と考え方が異なるので注意を要する。
(2) 危険作業の労働時間
普通の業種の1日の労働時間は8時間であるが、省令で定める危険な業務については1日の労働時間は7時間を超えてはならず、1週間の労働時間は42時間を超えてはならない(本法第23条第1項)。
この省令は1998年8月19日付省令2号であり、以下の業務は健康に害があり、危険な作業として指定されているので1日7時間を超えて働かせることはできない。
2)放射線に関する業務
3)金属溶接業務
4)危険物資運送業務
5)危険化学物資の製造業務
6)危険な振動を起こし労働者に有害な機械、機器を使用しなければならない業務
7)危険な高温、低温な環境での業務
これらの危険作業については時間外、休日に働かせることは禁じられているので注意すること(本法第31条)。
(3) 賃金
1) 賃金の定義
賃金は本法第5条で通常の労働時間において働いた労働の対価と定義されており、後述の割増手当の計算の基準になるので明確にしておかなければならないが、賃金以外の名称で支給されるものもあり、法では必ずしも明快ではないので労働判例により要約すると以下の通りとなる。実際の運用では労働判例に詳しい弁護士にご相談のこと。
②交通費、食費で毎月定額が支給される場合は賃金、実費で清算されるものは賃金ではない。
③ボーナスは報奨金であり賃金ではない。
④精勤手当は精勤を奨励するものであり労働の対価ではなく賃金ではない。
2) 賃金および手当等支払いの原則
②タイ通貨(バーツ)による支払(本法第54条)
③月1回以上支払うこと(本法第70条)
④全額支払い(本法第76条)
以下の例外を除き控除してはならない。
(ロ)労働組合費の控除
(ハ)貯蓄協同組合その他同様의性質を有する協同組合への納付金、または労働者だけに利益がある福利厚生のための納付金。ただし、労働者の文書による承諾を要する。
(ニ)本法第10条による保証金、または労働者の故意、過失による使用者への重大な損害賠償。ただし労働者の同意を要する。
(ホ)合意に基づく積立金への納付金
*以上のうち(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)のそれぞれは労働者が給与支払日に受取る権利のある金額の10分の1を超えてはならず、また、合計額が同じく5分の1を超えてはならない。ただし、労働者の書面による承諾を得た場合を除く。
(4) 時間外勤務、休日労働、休日時間外勤務の業務命令と割増手当
1)時間外勤務、休日勤務に関する労働者の事前承諾
日本と同様原則として時間外、休日勤務、休日時間外勤務はさせられないのであるが、日本の三六協定と異なり、すべて事前に労働者の承諾を要する(本法第24条)。この承諾は本法第77条により文書により労働者に署名させることが要求されている。従って、時間外勤務等をさせる場合、時間外勤務等依頼書を用意しておき、署名させて、それをもとに給与計算を行うことになる。
なお、時間外勤務が2時間以上である場合、時間外勤務を開始する前に20分以上の休憩時間を与えなければならない(本法第27条第4項)。
また、時間外勤務、休日勤務時間の合計は省令で定めることになっているが(本法第26条)、1998年8月19日付省令第3号により休日時間外勤務も含めて1週間に36時間を超えてはならないと定められている。
2) 割増手当
労働日の時間外勤務、休日勤務、休日時間外勤務については前述の賃金を基礎に次のように割増手当を支給しなければならない(本法第56条)。
| 項目 | 割増率 |
|---|---|
| ①通常の労働日の時間外勤務 | 通常の労働時間の時間当たり賃金の1.5倍以上 |
| ②休日勤務(月給制/有給の場合) | 通常の労働日の賃金の1倍以上(追加支給) |
| ②休日勤務(日給制等/無給の場合) | 通常の労働日の賃金の2倍以上 |
| ③休日時間外勤務 | 通常の労働時間の時間当たり賃金の3倍以上 |
(5)管理職の時間外勤務、休日勤務手当
一般に管理職は時間外勤務手当、休日勤務手当はないと解されているが、この場合の管理職とは本法第65条において「雇用、報奨の付与(昇給を含むと解されている)、または解雇について使用者を代理して行う権限のある者を指すことになっているので、いかなる職名を与えようが、就業規則にはどの職務が手当を貰う権利のない管理職であるか明確にしておくことが、紛争を避けるため必要である。弁護士ともよく相談しておくことが必要である。
ちなみに判例では以下のものがある。いずれも出所はカセームサン・ウィラワン著「労働法解説」2010年ウィンユーチョン出版社である。
1)「更に上司を通さなければ処分できない職位のものは使用者を代理しているとはいえず、時間外労働手当の権利がある。判例番号2571/2527(1984年)」
2)上級管理者の事前の了解をえなければ処分できない職位のものは使用者を代理しているとはいえず、時間外労働手当等を貰う権利がある。543/2545(2003年)」
日本では「名ばかり店長」で、実態は平社員でも時間外労働手当は貰えないという不服の裁判が起き、使用者が裁判で負けて大きな話題となったことがあった。
この管理職の定義についても、部長という職位で、日本でも部長には時間外勤務手当等は支給されていないので、タイでも部長は管理職だから手当なしと勝手に解釈する日系企業が散見されるので、注意しておきたい。
7.休暇と賃金
(2)兵役休暇(本法第35条):法律による点呼、訓練、演習等などのため軍務に就くとき休暇を与えなければならない。最高60日までは有給(第58条)。
(3)出産休暇(本法第41条):休日を含め120日間までの休暇(妊婦検診+出産)、うち60日分までは労働日賃金(第59条)、医師の証明により配置転換を要求できる。(251207本法改正法第9号:改正前は出産休暇98日間まで、うち有給45日分までであった)
新生児の障害・疾病によっては(上記120日間までに加え)15
出産する女性従業員の配偶者(同性婚を含む法律婚)に対する15日間までの出産支援休暇(有給)も、タイで初めて法制化された。
(5)研修・技能開発休暇(本法第36条):有給とは定めていないが、経営判断として有給か無給かを定めること。1998年8月19日付省令第5号の規定:
2) 条件:計画やカリキュラムが明確であること。
3) 義務:7日前までに理由を通知すること。
4) 拒否条件:年間30日以上/3回以上取得済みの場合、または事業に重大な損害がある場合。
(6)年少労働者の研修:13.年少労働者を参照。
(7)その他(本法第34条):慶弔、用事休暇、出家など。法的には有給ではないが、社内規定で定めている企業は多い。
8.休憩
1日の就業時間中に少なくとも1時間、労働を開始してから5時間以内に与えなければならない。労使合意により1回の休憩時間を1時間より短くしてもよいが合計で1時間以上でなければならない(27条1項)。
工場の場合、12時から45分、15時から15分などと分割している企業は多い。ただし、後述の通り18歳未満の年少労働者は作業開始から4時間を超えない時間内に1日の休憩時間を連続して1時間以上与えなければならないので注意すること。
前述の通り、時間外勤務が2時間以上の場合、時間外勤務開始前に20分以上の休憩時間を与えなければならない。
9.休業中の賃金
不可抗力でない休業の場合、75%以上の賃金を支払わなければならない(本法第75条2項)。また、3日以上前に労働者と労働官へ通知しなければならない。
(本法第75条は2008年に改正されており、改正前は50%以上であった。3日以上前の通知も新たに加わった条項であるが、3日以上前というのは実行不可能の場合も多々あると思われる。材料の入荷が突然遅れるような場合である。こういう場合に備えて特別の訓練をするとか、テーマを日ごろから用意しておくことは大事であろう。
10.最低賃金制度と技能別賃金制度
本法第6章第78条から第91条までが最低賃金に関する規定であるが、この部分も2008年に改正され2月27日の官報で公布され翌日28日から施行されている。
改正の骨子は今までの県別最低賃金の決定に加え、技能別賃金を最低賃金委員会が定めるようになったことである。
タイは現在発展の踊り場にあり、技術の向上が急がれており、教育省、労働省とも教育の質的向上、職業訓練に力を注いでいるところであるが、こうした背景のもとに、一定の技能レベルにある労働者の賃金を定めることにより、労働者の向上意欲を喚起しようということである。
11.解雇予告と解雇補償金、特別解雇補償金
(1) 解雇予告と労働者の雇用契約終了
契約期間のない雇用契約を使用者または労働者が終了する場合、解雇予告を相手側にしなければないない。通告の方法は給与日かそれ以前(3か月以上前でなくてもよい)に次の給与日に終了する旨を書面により通告することによって行うことと定められている(本法第17条第2項)。つまり、解雇予告日と解雇日との間に2回給与支給日がなくてはならないのである。試用期間中の場合、契約期間のない雇用契約とみなされる。
実は、労働者側が雇用契約を終了する場合も、上述と同じ解雇予告が必要であるが、これはほとんど守られておらず、直前に急に辞めると通告することは多い。企業もこの決まりにかかわらず、引き継ぎを考慮して1か月前の解雇予告を就業規則で求めているのが一般的である。
使用者が解雇予告をしないで直ちに解雇する場合、解雇予告により雇用終了のときまでに支払わなければならない賃金を支払うことにより即時解雇することができる。
(2) 解雇補償金
1)会社都合(定年を含む)で解雇する場合は上述の解雇予告を行うと同時に以下の通り解雇補償金を支払わなければならない(本法第118条)。
| 継続勤務期間 | 解雇補償金(最終賃金) |
|---|---|
| ①120日以上 1年未満 | 少なくとも30日分以上 |
| ②1年以上 3年未満 | 少なくとも90日分以上 |
| ③3年以上 6年未満 | 少なくとも180日分以上 |
| ④6年以上 10年未満 | 少なくとも240日分以上 |
| ⑤10年以上 20年未満 | 少なくとも300日分以上 |
| ⑥20年以上継続 | 少なくとも400日分以上 |
(3) 解雇予告、解雇補償金が不要な場合
1)解雇予告が必要でない場合
期間が明確に定められている雇用契約。期間終了により雇用を終了する場合は、解雇予告は不要である(本法第17条第1項)。ただし、試用期間を定めた雇用契約は2008年の改正で期間の定めのない雇用契約と定められている。従って、試用期間中、または試用期間終了日に解雇する場合は解雇予告が必要となる。また、120日以上勤続していれば解雇補償金の支払いが必要となる。
また、期間が明確に定められていて、通常の業務でないもの、臨時的性格を有するもの、季節的労働であるもの、2年間で終了するものであれば解雇補償金を支払う必要はないが(本法第118条第4項)、それは同条に通常の業務ではないという条件がついている。この解釈については判例もあるので、労働問題に通じている弁護士に相談すること。
2)非違行為による解雇(解雇補償金不要):本法第119条
②使用者に対して故意に損害を与えた場合
③過失により使用者に重大な損害を与えた場合
④就業規則、規律または使用者の法にかなった正当な命令に違反し、文書で警告を受けた場合。ただし、重大な違反の場合は警告を要しない。(警告書は1年間有効)
⑤正当な理由がなく、3日間連続して職務を放棄した場合
⑥最終判決により禁固刑を受けた場合(過失・軽犯罪は使用者損害時のみ)
(4) 整理解雇
合理化等の理由で解雇する場合、60日以上前に、労働監督官と本人に通告することを要する(本法第121条第1項)。通告しない場合、通常の解雇補償金のほか最終賃金の60日分の解雇予告に代わる「特別解雇補償金」を支払うこと(第121条第2項)。また、6年以上勤続者には、1年当たり15日分以上の追加補償が必要(上限360日分)。
(5) 事業所移転
事業所を移転する場合、30日以上前に通告する必要あり(本法第120条第1項)。その際、新事業所で勤務を望まない労働者は、雇用契約終了を通告でき、通常の解雇補償金と同額の特別解雇補償金を受取る権利がある(第120条第3項)。
13.年少労働者の保護
満15歳未満の労働者は雇用禁止。雇用時には「国民身分証明書」および「タビエンバーン(住居建物登録証)」のコピー提出が慣習。15歳以上18歳未満の保護規定:
(2)雇用条件の記録を作成、労働官の検査に備える
(3)雇用契約終了から7日以内に労働官へ通知
(4)作業開始後4時間以内に1時間の休憩(連続)
(5)22時から6時までの就労禁止
(6)時間外勤務、休日勤務禁止
(7)危険労働禁止(金属溶解、危険化学物質、フォークリフト運転、地上10m以上作業など計13項目)
(8)賃金を本人以外(親など)に支払うこと、保証金・保証人の要求禁止(本法第51条)
(9)研修参加のための休暇(年間30日以内は有給)
(10)就労禁止場所:と畜場、賭博場、接待所など(本法第50条)
14.女性労働者
女性労働者については本法第38条から第43条まで以下のような保護規定がある。
(2)妊娠中の女性の禁止作業:振動機械、車両運転、15kg超の重量物運搬、船内作業など
(3)妊娠中の女性の22時-6時の就労、残業、休日勤務禁止(事務職等は本人承諾で残業可)(本法第39/1条第1項・第2項)
(5)産前産後休暇:90日(本法第41条)、うち45日は有給(第59条) ※7項(3)の改正内容に準ずる
(7)妊娠を理由とした解雇禁止(本法第43条)
15.派遣労働者
本法第11/1条により、使用者は、派遣労働者の権利、福祉を公正、公平に扱わなければならない。「ペン・タム(เป็นธรรม)」の原則に基づき、正社員と同等の福利厚生が定められている。違反した場合は10万バーツ以下の罰金(第144/1条)。
16.福利厚生委員会
50名以上の労働者を有する事業所は、5名以上の労働者代表で構成する福利厚生委員会を設けなければならない(本法第96条)。会議は少なくとも3カ月に1回開催すること(本法第98条)。
17.従業員台帳、賃金台帳
(2) 賃金台帳:労働日・時間、賃金、割増手当等を記載(本法第114条)。労働者の署名が必要。支払日から2年間保存。
18.労働状況の労働監督官への報告
毎年1月に定められた様式で報告すること。並びに変化があった場合、翌月に報告することが義務付けられている(第115/1条)。
(以上)

