icon-anchor 労働関係法(労働組合と労使紛争解決のルール)

1.法の目的と改正案

 この法律は労働組合の結成、運営ならびに労使紛争解決のルールに関するもので、日本の「労働組合法」と「労働関係調整法」に相当する。

 日本では、労使交渉の手順は、労働協約または労使協定で定め、労働関係調整法4条においても労使の自主的な解決をすすめているのであるが、タイの場合は、労使交渉の手順をこの法において定めているのが日本と異なるところである。つまり、調停を経ないスト、ロックアウトは違法であることに注意されたい。

 この法律の改正案はすでにできているので、いつ国会で審議されるかは注目しておかねばならない。現時点での案の重要部分は要求書提出から労使交渉、調停に至る日数を長くしていることである。例えば調停は5日以内に合意するようにしなければならないが、この日数を延ばす案となっている。現実に合わせたということができよう。

 

2.労使協約

労働者が20人以上の事業所では労使協約を有するようにしなければならないと第10条で定めているが、これはできるだけ労使が協調して労働条件を定めるように配慮したものと思われる。そして労働協約がない場合は就業規則を労使協約とみなすことになっている(10条)。この協約(使用者対労働者または労働組合)は3年を超えるものは禁止されている。期間の定めのない場合は1年とみなされる(12条1項)。

労使協約には少なくとも以下のことを含めることが要求されている(11条)。

(1)雇用または労働の条件

(2)労働日および労働時間

(3)賃金

(4)福利厚生

(5)解雇

(6)労働者の苦情申立

(7)労働条件の改正または更新

この内容は最少の条件であるから、法にないこと、就業規則にないことも適宜労使で話し合って協定とすることが期待されているのである。これは労使間の協定であるからこれを改訂しようとする場合は、次の3.により要求書提出から労使交渉の手順を踏まなければならないこととなる。

日本の場合は労使交渉の手順は労働協約で労使間の話し合いで決められるのであるが、タイの場合、労働運動の歴史が浅いということもあり(この法律はタイで民主化が緒についた1970年代の1975年に制定されている)、法で定めているのである。

3.労働者側が要求書を提示する場合

(1)労働組合が提出する場合

 全労働者数の5分の1以上が組合に加盟していることが求められている(15条1項)。

 使用者側が組合員名簿を見て確認することは難しいが、はたして5分の1以上が組合員であるか疑わしいときには、労働調停官に対して調査と証明を求めて書面により要求することができるようになっている(15条3項)

2)労働者の代表が提出する場合

要求書に関係する労働者の15%以上の氏名と署名が必要であり、交渉のための代表は7名以内(関係労働者または労働組合から選出)を省令で定める民主的な方法により選出する必要がある。

4.労働争議の解決
(1) 要求書受理の日から3日以内に交渉開始(16条)

   労使交渉の際、労使双方に2名以内のアドバイザーを加えることができる。アドバ

   イザーは労働省の定める資格が必要である(17条)。
(2) 3日以内に交渉を開始できない場合、要求書受理から3日を経過した時点、または合

意不成立場合、不成立の時点から24時間以内に労働調停官に文書により通知(21

条)
(3)労働調停官 は通知を受けた日から5日以内に合意するように調停する(22条)。
日本と異なり、必ず調停の手続きを踏まなければならないことに注意すること。
(4)合意した場合、合意内容を文書にして双方署名、3日以内に30日以上公示(18条)。

さらに、合意の日から15日以内に労働事務所に提出し登録しなければならない(18条)。
(5)合意に至らない場合、「合意できない労使紛争が発生した」として以下の手続き、  

実力行使に移ることができる。
1)争議仲裁人を任命することに合意する、または
2) 使用者―ロックアウト
労働者―ストライキ
仲裁人は要資格、労使双方の合意が必要なので仲裁はまれである。
ストライキまたはロックアウトの実力行使を始める前に必ず労働調停官と他方に24 

時間以前に書面による通知をしなければならない(34条2項)。

5.ロックアウト、ストライキが禁止される場合
(1)要求書が相手に提示されていないか、調停が進行しているなど合意できない労使紛争 

にまで至っていない。

(2)労使協議で合意に至り、相手が合意に従った場合
(3)労働調停官の調停に一方が従ったとき。

(4)仲裁判断に一方が従ったとき

(5)労働委員会で審議中であるか、大臣の裁定があったか、労働委員会の仲裁があった場

   合

(6)仲裁人の審理中である場合

6.特殊な事情における労使紛争解決

(1)公共的機関における労使紛争

 以下の機関において「合意できない労使紛争」が起きた場合、労働調停官は後述の労働委員会の裁定に付さなければならない(23条)。

1)鉄道

2)港湾

3)電話、通信

4)エネルギーの生産もしくは販売、または国民に対する配電

5)上水道

6)燃料油の生産または精製

7)病院または保健所

8)省令で定めるその他の事業

 

 労働委員会は裁定の請求から30日以内に裁定をして両当事者へ通知しなければならず、不服があれば7日以内に大臣に不服申立を行い、大臣は10日以内に採決、労働委員会の裁定(不服申立がなかった場合)、大臣の裁定は最終となり両当事者は従わなければならない。

(2)国家経済、国民の安寧に影響を及ぼ場合

 大臣がこのように懸念した場合、大臣は「合意できない労使紛争」を労働委員会に仲裁するように命令することができる。労働委員会は命令を受けた日から30日以内に仲裁判断を下さなければならない。労働委員会の仲裁判断は、仲裁というものの性格から最終であり、両当事者は従わなければならない(24条)。

(3)戒厳令等が出されている場合

 戒厳令、緊急事態宣言、国家経済に重要な影響がある場合、大臣は「合意できない労使紛争」を官報で公布して大臣が選任した委員会の仲裁に付すことができる。委員会の仲裁判断は最終のものとして両当事者は従わなければならない(25条)。

 

7.労働委員会

(1)役割

 日本の中央労働委員会と似た組織であり、役割は以下の通り(41条)。

  1)23条によりロックアウト、ストライキが禁止されている業種の労使紛争につい

     て労働調停官から付託された裁定を行うこと

  2)労働争議の仲裁

      ①国家経済、安寧に影響があると判断した場合、大臣は委員会に仲裁を命ず

       ることができる(24条、35条)。

      ②その他仲裁を付託された場合の仲裁

  3)不当労働行為の裁定と仲裁

  4)大臣から委託された事項について具申すること

(2)委員会の構成、任命

  1)委員長1名、委員8名以上14名以下、委員は少なくとも3名は使用者側、同じ

     く3名は労働者側より選出

  2)委員長、委員は大臣により任命

(3)会議の定足数

  1)5名以上の委員の出席かつ使用者側、労働者側から各1名の出席

  2)23条、24条、35条(4)に基づく労働争議の裁定を審議する場合は委員総数の

     2分の1以上かつ使用者側、労働者側からそれぞれ1名の委員の出席

7.労働組合
1) 規定を作成、登録後、法人格を得る(86条)。
(2) 10人以上の発起人が必要(89条)

  発起人の資格は、①同じ使用者の下にあるか、②使用者の数に関係なく同種の事業を 

 行っている事業者の労働に従事していること。つまり企業別と産業別の労組が可能とな

 っている。

(3) 組合の目的が法に合致していることが必要(91条)
雇用条件に関する利益を確保、保護し、使用者、労働者間および労働者相互の良好な

  関係を助長するものなど(86条)
(4) 組合の権利と責務(98条)
1)使用者または使用者協会に対して要求を提出し、交渉をし、仲裁決定を受理し、  

協約を締結すること
2)組合員の利益のための活動を企画し、執行すること
3)職業紹介に関する情報を提供すること
4)経営、労務に関し問題の解決、解決のための助言をすること
5)総会の承認を得て、組合員の福祉または公共の利益のために資金および財産を提 

供すること
6)組合の規約に規定された料率で入会金、組合費を徴収すること

(5)組合委員、小委員会委員の資格(101条)

1)当該組合の組合員であること

2)出生によりタイ国籍を有すること

3)満20歳以上であること

(6)スト権の確立

90条において労働組合の規約には必ずストライキ指示の手続きを記載しなければならないが、103条の(8)において秘密投票により組合員総数の過半数の賛成を得なければならない。

8.労使協議会(労働者委員会)

これは日本でよく見られる労使協議会、経営協議会に類するもので、タイでは日本と異なり労使の自主的合意ではなく法で以下のように規定している。労働組合のように法人格は与えられず、使用者が知らない間にできているという例もあるので、よく把握しておくことが肝要である。

ここでは労使協議会という言葉を使用したが、法律の原文は労働者委員会である。
1 50人以上の事業所で設置できる(451項)。
2 労働者の15以上が労働組合員であるとき、委員の数は労働組合員からなる委員

が非労働組合員からなる委員より1人以上多いこと。12以上が組合員であると

き、労働組合は全員を組合員から任命することができる(452項)。

3)委員の選出は局長が定めて官報で公布。

4)委員数は以下の通り(46条)

    事業所の労働者数

委員数

50名から100名以下

5

100名超200名以下

7

200名超400名以下

9

400名超800名以下

11

800名超1500名以下

13

1500名超2500名以下

15

2500名超

21


5 使用者は、最低3ヶ月に1回委員会を開催すること(501項)。また、委員の過半数もしくは労働組合が要求したとき委員会との会議を開催しなければならない(501項)。
6)議題は以下の通り。
   1)労働者の福利厚生
   2)労使双方に有益である就業規則を定める協議
   3)労働者からの苦情申立の審議
   4)事業所内の調和、対立の解決

7)使用者の行動が労働者に不公平であるか困難を引起していると労使協議会が判断したとき、労働裁判所へ申立てることができる(502項)。

8)委員が職務に忠実でなく、国民の安寧に有害な行動を行っているか、正当な理由なく業務に関係する使用者の秘密を洩らした場合、使用者は委員または委員全員の退任を求めて労働裁判所へ提訴することができる(51条)。
9)委員の解雇、懲戒、委員活動の妨害になる行為は、労働裁判所の許可を要する(52条)。

10)使用者は賃金、手当等労働者として当然貰う権利のある金銭以外の金銭、資産等を委員に与えてはならない(53条)。

9.不当労働行為

(1)不当労働行為の意義と内容

 不当労働行為とは元々アメリカにある制度で日本の労働組合法に取入れられているのであるが、タイでもこれが取入れられている。日本の憲法の8条にある労働3権(団結権、団体交渉権、団体行動権)を保障するものとして使用者の特定の行動を禁じているるのであるが、タイの本法では、121条から123条で以下のことを使用者が行った場合、不当労働行為としている。

   1)労働者または労働組合が法で認められた労働3権を行使しているとき、労働者または委

員を解雇、就労に耐えない状況をもたらす行為

 2)労働組合員であることを理由に解雇すること

 3)労働組合への加入を妨害または脱会させる行為(金銭、物品を与えるなど)

 4)労働組合の運営を妨害すること、また、干渉すること

2)労使協約または仲裁判断の有効期間中、使用者は要求書に関係した労働者、労働者の代表、労働組合の委員、小委員会の委員、労働組合員、労働組合連合の委員、小委員会の委員を解雇してはならないが、以下の場合は除く

 ①職務上の不正を行い、または使用者に対し故意に刑事犯罪を犯した。

 ②使用者に対し故意に損害を与えた。

 ③就業規則、規律または使用者の法にかなった、正当な命令に違反し、使用者が文書で警告をおこなった。ただし、重大な違反の場合は警告を要しない。ただし、就業規則、規律または命令は要求書に関する行動を規制するためのものであってはならない。

 ④合理的理由なく、3日間連続して職務を放棄した。

 ⑤労使協約または仲裁判断に違反するよう扇動、支援、誘導する行為を行った。

(2)不当労働行為の救済

  不当労働行為により損失、被害を受けた者は、違反日から起算して60日以内に労働関   

 係委員会に救済を申立てることができる(124条)。

  労働関係委員会は申立を受理した日から90日以内に不当労働行為であるかどうかの決

 定をし、命令しなければならない(125条)。

  違反者が、命令を受けた日から労働関係委員会が定めた期限内に命令を実行した場合

 は、刑事訴訟は行われない(158条により6ヶ月以下の懲役もしくは1万バーツ以下の罰

 金または併科)。

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